Melts in your mouth


夜7時半。残業はあったが印刷所への入稿も済んで、夏の激務にピリオドを打った私は、どういう訳か平野の住んでいるマンションにいた。

「#丁寧な暮らし」が異常に似合う空間で、エプロンを着けている平野と向かい合っている。


昨日から仕込んでいたらしいビーフシチューを煮込んでいる音がキッチンから聞こえている。遠慮したのだが、ちゃんと話がしたいからと招待され、流されるがままにここに来てしまった。

普通に聞き流してしまったけど、冷静に考えて昨日からビーフシチュー仕込んでるって何?私には縁のない言葉過ぎて、最早平野が異世界に住んでいる男に感じる。



「先輩、朝の会話覚えてますか。」

「忘れる訳ないでしょ。」

「あの、先輩、俺の事好きって……本当ですか?」

「あんたどんだけ私を疑ってんの?」

「だって、実感湧かなくて。」

「平野、好きだよ。平野の実感が湧くまで何度でも言う。好きだよ。」

「待って無理、尊い。俺の心臓壊れる。」

「乙女かよ。」



みるみるうちに赤面して、それを両手で隠している平野が指の隙間から目を覗かせ「付き合って下さい」と言葉を落とす。

しかしここだけは冷静な己。「いや、それは話し合いが終わってから」そう返事をしたら、分かりやすく平野が涙目になった。


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