Melts in your mouth
はぁーと盛大な溜め息を吐いてテーブルに突っ伏した私に「永琉先輩お疲れですか?俺がお姫様抱っこして運びましょーか?」そんな平野のふざけた言葉が降り注ぐ。
「私の疲弊を労わる気があるなら今すぐ視界から消えて欲しい。」
「…という訳で山田さん。俺の永琉先輩がそう言ってるので退席願いま…「あんただよ平野。何シレっと山田に失礼な事言ってんの。」」
さっきから癪に障って障って仕方がなかったけど”俺の”永琉先輩ってまず何?一ミクロンたりとも私はあんたの物になった覚えはないです。
咄嗟に顔を上げた自分の涙袋がピクピクと軽い痙攣を起こしている。あーあ、平野ストレスだ。完全にそうだ。隣に居る無礼な野郎の腕にグーパンを決めたら、ふにゃりと憎たらしい微笑を浮かべられた。
「永琉先輩からスキンシップってレアですね、嬉しいです。」
「どんだけ幸せな思考回路してんの?ある意味羨ましいわ。」
「ありがとうございまーす。」
「褒めてない。」
「えー?俺からすると褒め言葉ですよ?俺の幸せな思考回路で永琉先輩も幸せにしますね。」
「頼むからもう喋んないで。」
お願いだからこれ以上平穏な昼休みをぶち壊さないでくれ。弁当を片付け終わった私が己の顔面の半分を片手で覆って細やかな望みを口にすれば、正面に居る山田が困った様な苦笑いを滲ませた。
「何か……俺の知ってる平野君と全然違うな。」
これだけ拒絶しても尚、にっこにこしている相手に呆れている私の耳を掠めた山田のその一言に、私は目を丸くした。確かにそうだ。そう思ったからである。
この平野 翔という男は蓋を開ければこそ忌々しい性格や、憎たらしい人間性を覗かせるが、そもそもその蓋自体が鉄でできているかの如く強固なのだ。上司後輩関係なく、部署すらも関係なく好感度を欲しいままにする程の役者っぷり。
ただただ鼻につくだけの本性をどうしてなのか私以外には絶対に見せない。そう、どういう訳か私だけがこいつの鉄でできた蓋を開けられるという宇宙一不要な能力を有しているのだ。
だからこそアンチ平野な私に共感してくれる人間は皆無であり、私はひたすら肩身の狭い思いをして我慢してきた。それなのに、そんな平野が私以外の誰かにこの腹立たしい姿を見せるなんて、違和感しか覚えない。