Melts in your mouth


裏があるのではないだろうか。ある気がする。否、あるに決まっている。この男がタダで自分にとって損害になる一面を露呈させる訳がない。悲しい事に長年こいつの先輩を誰よりもこいつの近くで務めてきたからこそ、この男がそんなタマではないと分かっている。



一体何を企んでいる?どうせ碌でもない事に違いない。少なくとも私にとっては非常に宜しくない物である事は確実だ。

山田に平野の本性を見て貰えたという嬉しさ反面、飄々としている平野がどんな悪しき思考を巡らせているのか懸念している己がいる。



さっきから一時たりとも山田に視線を向けずに頬杖を突いて私を見つめている曲者の平野は、頬に空気を溜めて唇を尖らせた。その様はまるで拗ねた子供であった。お前マジで何しに来たんだよ。



「永琉先輩、俺コーヒー飲みたいです。」

「あっそ、買いに行けば良いじゃん。」

「えー冷たーい。お昼に付き合ってくれない代わりに、コーヒーくらい付き合って下さいよー。」

「絶対嫌だ。」

「そう言うと思いましたー。でも、再来月号の表紙の件で大切なお話があるって言ったらどうします?」

「……。」

「先輩忙しいから、この後は打ち合わせして担当している漫画家先生の作業場に行きますもんね?」

「……。」

「俺も新人の子達の教育で中々時間がなくって話せるのが今日くらいしかなくてー。」

「……。」

「でも困ったなぁ、永琉先輩が付き合ってくれないなら誰に相談すれば良いのかなぁ。」

「…分かったわよ、行けば良いんでしょ行けば!!!」

「え!?行ってくれるんですかー!?わーい、嬉しいです。」



白々しい奴め。仕事の話になるとどうしても断れない私の性格を熟知してやがる。そんな的確に弱点をチクチク刺されて嫌な気持ちにならない奴がいるかよ。

周りに花が咲き乱れたトーンでも貼ってんのか?って位に麗しい笑みを綻ばせている平野が、私の腕を引っ張って「早く行きましょう~」と急かしてくる。


鉛と肩を並べられるまでに重い腰を渋々上げた私は、私達のやり取りを吃驚した顔で見守っていた山田を視界に映した。



「山田すまん、先に行く。お弁当ごちそうさまでした。弁当箱は洗って返すから。」

「あ、良いよ。俺が洗うから置いてけよ。」

「でも…。」

「その代わり、今度呑みに付き合って。」

「え、そんなんで良いの?」

「充分。寧ろそれが良い。」

「ん、了解。それじゃあまた連絡するから予定合わせよう。」

「おう、楽しみにしてる。」



お箸を持ったままヒラヒラ手を泳がせて見送ってくれる山田がつくづく良い奴で、こんな後輩だったら最高なのにと心の中で大きく叫んだ。



「せんぱーい、早くデート行きましょ?」



オメェは山田の爪の垢でも煎じて飲め!!!


< 36 / 170 >

この作品をシェア

pagetop