Melts in your mouth
あれから何事もなく数日が過ぎた。あの後、普通にホットのラテを注文して、私の注文を聞いた後にすかさず同じ物を注文した平野は、クレジットカードで二人分の支払いを済ませた。
先輩面くらいさせろよ。そう思いつつ湯気を揺蕩わせている紙でできたカップを受け取って「ありがとう」と漏らせば、「やったー永琉先輩とお揃いですね。匂わせちゃおっかなー」いつもの調子にすっかり戻ったクソ生意気後輩平野がそう答えた。
そして本当にカップを持っている私の手に、同じくカップを持っている己の手を寄せてスマホのレンズを向けて連写した。マジでやめろ、そもそも使い道ないだろその写真。何より、こんな無機質な写真一枚で十分だろ。
濃厚なミルクの香りとコーヒーの香りが合わさって鼻孔を抜けていく感覚に心が安らぐ。ゴクリとそれを流し込めば、ほろ苦い味が口腔内に溶けていく。
「あんた疲れてんの?」
「えー?何でですかー?俺疲れてるように見えます?」
「いや全然見えない。いつも通りの憎たらしいへらへら具合だし、無駄にイケメンな顔にも隈一つないし。」
「ちょっとー、即答しないで下さいよ先輩。俺のハートは硝子細工くらい繊細だって言ってるじゃないですかぁ。」
「あっそ。現代の硝子細工は随分と強度が高いわけね。」
「相変わらず辛辣~。」
とか言っておきながらへにゃりと笑ってんのが気に喰わん。絶対辛辣だと思ってないだろうし、こいつの心は一ミリも傷付いていないだろう。向かい合う形で座って全く同じサイズのラテを飲んでいる平野の姿は、適当にシャッターを切っても立派な画になりそうだ。
方や窓ガラスに映っているラテを飲んでいる自分の姿は社畜で疲れ切ったヨレヨレの女。あれ、本当に私と平野は同じ飲み物を飲んでんのか?どうしてこんなに差が出る?神様も意地悪ばっかりしてくれるよな。
「ま、あんたが言う気がないなら追求するつもりもないけど。無理すんなよ。」
こいつとどうして昼休みにラテなんか飲んでいるんだという疑問と不満は募る一方だが、食後にこうして落ち着いた時間を楽しむのも悪くないかもしれないとは悔しいけど思う。
頬杖を突いて目の保養だけにはなる人間の顔を凝視していた私を射抜くのは、色っぽい三白眼。平野はコテンと首を傾げて「どうして俺が疲れてるって思ってるんですか?」そんな質問を私にぶつけた。