Melts in your mouth
十中八九、平野と居るせいなのだろう。カフェの店内に座ってラテを飲んでるだけだってのに、周囲の視線が痛くてそろそろ身体を貫通しそうだ。
「別に大した理由はないけど。ただ、平野ってブラックコーヒー派じゃん。」
「へ?」
「ラテを飲んでるなんて初めて見たわ。さっきも気が立ってるっぽかったし、疲れてんのかなって思っただけ。後輩だって初めてできて受け持ってる仕事だけでも大変なのに、仕事教えたりすんのもそれなりに体力削られるから、平野なりに大変なのかなってお節介な思考を巡らせただけ。」
「……え、ちょっ…待って…どうしよう。」
「はい?」
落とした台詞にどんどん顔を赤く染めた平野は、耐えられなくなったといわんばかりに自分の腕に赤面した顔を埋めて明白な動揺を見せている。
突然どうした、そんなにラテが熱かったのか?何事においても緩いこの男の心情を察する高難易度のスキルなんぞ当然持ち合わせていない私は、眉を顰めて怪訝な表情を浮かべた。
チラリ。申し訳ない程度に双眸だけを覗かせて私と視線を絡ませてから、相手はゆっくり開口した。
「嬉しい。」
「……。」
「どうしよう、超嬉しい…です。俺がブラックコーヒー派って先輩が知っててくれてたなんて思ってもみなかったから嬉しくて…俺のイケメンフェイスがだらしないキューティーフェイスになっちゃうじゃん。」
いや、自分でイケメンとかキューティーとか言うなよ。自分の大層整った容姿を自覚しているこの男は、質が悪いったらありゃしない。
しかしながら、今更こいつの清々しいナルシストっぷりを目の当たりにしたとて、特別驚きはしない。だって平野ってこういう奴だもんな。そんな感想しか出てこない。慣れという物は全く、つくづく恐ろしい。
少々珍妙な平野の言動を受け流しながら、ラテを啜る。
「で、結局疲れてたり悩んでたりってのはないわけね?」
「はい。永琉先輩が隣のデスクに居てくれる限り俺はいつも元気でーす。」
「何それウザい。」
「可愛い後輩なんだからもっと愛でて下さい♡」
「お断りします。」
まだ頬に桜色を残したままの相手は、秒速でこちらが出した回答にへらりとお得意の艶笑を携えて「俺、永琉先輩に受け入れて貰えるまで諦めないので覚悟して下さいね」と死刑宣告も同然な爆弾発言を残したのだった。