運命の一夜と愛の結晶〜裏切られた絶望がもたらす奇跡〜

消えた彼女

 置いていかれた現実が、陸斗の笑いと共に重くのしかかる。

「探しに」と言いかけた怜に陸斗が言葉を被せる。

「今は、そんな時間はない。何時だと思ってる?今から用意して空港に向かうぞ」
「戻りたくない」

 今まで仕事にも自分にも厳しく妥協を許さない冷酷王子と言われる男が発した言葉とは思えない。

「早ければあと二週間で帰って来られるんだ」
「帰ってきたら俺の邪魔をするなよ」
「仕事さえきちんとしてくれたら文句はない」

 長年の付き合いだが、初めて怜が年相応の男に見えた。いつも落ち着き、淡々と仕事を熟す怜だが、どうやら一人の女性に執着しているようだ。

 だが、飛行機に乗り込むと仕事モードに切り替えたのか、いつも以上に精力的に仕事を片付ける。寝る間も惜しんで仕事をしている姿を見て、心配になりどうしたのか聞いた陸斗に、驚きの返事が返る。

「一分一秒でも早く日本に帰ってさくらに会いたい」
「……」

 驚きすぎて言葉が出ないとはこの事だろう。ここまで、執着するほどのさくらという女性に、陸斗も興味が湧く。

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