憧れのCEOは一途女子を愛でる
「孫はまとまった時間ができるとひとりでキャンプに出掛けてるらしいんだ。女性と出会いなんかないよ」

 どんな趣味なのかさっきから気になっていたけれど、アウトドアレジャーだとわかった。たしかに今はソロキャンプを楽しむ人も多い。
 我が社もキャンプ用品を取り扱っているが、売れ行きは好調で年々右肩上がりだ。

「一度、実物を見てみてくれないか?」

「……実物って?」

「実は今日、孫をここに呼んだ。もうすぐ来る」

 その言葉を聞いて、私はポカンと口を開けて固まった。
 ちょっと待ってほしい。今すぐこの場を逃げ出さない限り、この流れだとこれから私はお孫さんと初対面することになる。

 落ち着こう。辰巳さんが『うちの孫と結婚してくれたらいいのに』なんて言うからあわてたけれど、よく考えてみれば焦る必要はない。
 あれは冗談だろうし、もしも本気で言ったのだとしても、私もお孫さんも互いにその気がないのだから大丈夫だ。
「いつも祖父がお世話になっています」とここは無難にあいさつをしておけばいい。祖父同士が勝手に結婚の話を進めるなんて無理に決まっている。

「あのイケメンくんを生で見るのは久しぶりだなぁ」

 囲碁に集中しているフリをしているが、祖父が会話に入りながら口元をニヤニヤとさせている。
 早く勝敗がついたら帰れるのに、腕組みをしたまま一向に次の手を指さない祖父が恨めしい。

「お孫さん、今日はお休み?」

「土日は休みだ。雨だからキャンプにも行かんのだろう」

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