憧れのCEOは一途女子を愛でる
 だけど春の足音が聞こえはじめる二月、加那太の部屋を訪れたときに違和感を感じた。
 相変わらず加那太はジャージ姿だったけれど、この日はいつもと違って部屋の中が片付いていたのだ。

「どうしたの? なんか綺麗じゃない?」

「え……ああ……冴実にばかり掃除を頼むのは悪いから、少しは自分でやろうと思って」

 その言葉を聞いて私は素直にうれしかった。加那太が私を思いやり、招き入れる前に部屋を掃除しておいてくれたのだから。

「今日はお天気が悪いから洗濯するのは無理だけど、来週は掃除も洗濯も私がやるね。任せて!」

「大丈夫。来週は金曜から実家に帰るんだ」

「そうなのね……」

 じゃあ来週末は会えないのか、と寂しさを感じながらリビングのソファーに腰を下ろした。
 今までだって必ず土日に会えていたわけじゃないし大丈夫、と心の中で自分自身をなぐさめる。タイミングが合わないことだってあるもの。

「だったら平日でもいいからそれまでに会おうよ」

「卒論もあるし、時間が取れないな」

 加那太に即答され、私はガクリと肩を落とした。
 今日は彼と顔を合わせてまだ五分ほどしか経っていないのに、なんだかふたりのあいだの空気が悪くなった気がした。
 私はそれが嫌で、懸命に顔に笑みを貼り付けて平静を装う。

「じゃあ、差し入れでも持ってこようか。少しだけでも会いたいから私が努力する!」

「努力?」

「うん。この先もずっと一緒にいるためにね」

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