憧れのCEOは一途女子を愛でる
 立ったまま話していた加那太がラグの上にあぐらをかいて座り、しばし黙り込んだ。
 私の顔を一向に見ようとしない彼の態度に徐々に不安が膨らんでいく。

「ずっと、ってどういう意味? 俺と結婚でもしたいのか?」

 今度は反対に私が言葉を詰まらせて沈黙が流れる。
 加那太の口から“結婚”というワードが出たものの、彼がひどく渋い表情をしていたのがショックだった。

「そんなのまだわからないけど、何年か経ったらいずれは考えるかも」

「俺が家でだらしないのは知ってるだろ? 就職先が決まってるとはいえ給料だって高くないし、結婚なんて無理だ!」

「別に今決めなくてもいいじゃない」

 加那太と付き合ってから、彼がこれほどイライラするのは見たことがない。
 キュッと眉間にシワを寄せ、今にも大声を出しそうで恐怖すら覚えた。
 恋人に会えるとウキウキした気持ちでやって来たのに、すぐに喧嘩になるなんて最悪だ。

「今日は帰るね」

 このまま話していても彼は頭に血が上る一方で、よい方向に向かう気がしない。
 お互いに一旦落ち着く時間が必要だから、私はこの部屋にいないほうがいいのだ。

 ソファーから立ち上がって玄関先で靴を履いていても、加那太は無言のままこちらを見ようともしなかった。
 交際を続けるには努力が必要で、遠回しに加那太にはそれが足りないと受け取れる発言をした私に対して、彼は怒っているのだろう。

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