憧れのCEOは一途女子を愛でる
「またね」

 加那太に声をかけ、私は玄関を開けて外に出た。
 バタンと扉が閉まった途端、悲しい気持ちが込み上げてきて、目の縁にじわじわと涙が溜まってくる。

 加那太は私との未来を微塵も考えていないと思い知らされて、胸がズシリと重くなった。
 家でだらしないとか給料が高くないとか、どちらも私と一緒にいたくない言い訳にしか聞こえない。

 そのあと家に帰ってからもずっと加那太との会話が頭から離れなかったが、落ち着けと自分自身に言い聞かせて深呼吸をした。
 加那太も私もまだ大学を卒業していない中で、いきなり将来の話になって彼は戸惑っただけかもしれない。
 時間を置いたら、この先冷静に話せる日もやってくると思う。そんなふうに考えるのはポジティブすぎるだろうか。


 その日を境にメッセージのやり取りは途絶えていたが、加那太から翌週の木曜日に連絡がきた。夜にレストランで食事をしないかと誘われたのだ。
 家が大好きな加那太が外で食事したいだなんて珍しい。彼なりに前回会ったときの喧嘩を気にしているのだと思う。

 私が了承の返事をすると、彼はメッセージで待ち合わせの場所を知らせてきたのだけれど、なぜか行ったことのないカジュアルなフレンチレストランだった。
 ホームページで確認してみたら、ナチュラルな木の色のテーブルが配置されていて温かみのあるオシャレな内装のお店だ。

「冴実、お待たせ」

 待ち合わせの時間よりも早く着いた私が店内で待っていると、しばらくして加那太が現れた。
 いつも家で見るジャージ姿とは違い、今日はダウンコートの下に洒落たオフホワイトのシャツを着ていた。

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