憧れのCEOは一途女子を愛でる
「おじいちゃん、傘を持ってきたよ」

「おお、すまんな。でも……こりゃもう少しかかるぞ」

 祖父が碁盤を見つめたまま、むずかしい顔で返事をした。
 私にはわからないけれど勝負が拮抗しているのか、祖父はプロ棋士さながらに次の手を考えている。
 
(とも)さん、まだまだ俺には勝てんな」

「いやいや、たっちゃん、実力の差は縮まっとる!」

 祖父が囲碁に没頭し始めたのは、ここに通い始めて辰巳さんと打つようになってからだ。
 腕前は辰巳さんのほうが上みたいで、祖父はなんとかそのレベルに追いつきたいらしい。
 ふたりは馬が合うのか、いつも一緒にいて楽しそうに会話を交わしている。祖父にこんなにも仲の良い友人がいてよかった。

「冴実、終わるまで待ってるだろ?」

「うん。おじいちゃんとなにか甘い物を食べて帰ろうと思ってるから」

 この近くに祖父が気に入っている『花野庵(はなのあん)』という名の甘味処(あまみどころ)があり、そこに寄るのが実は密かな楽しみなのだ。
 休みの日をそこでゆったりと過ごすのも、ある意味贅沢だと言える。

「いいなぁ。こんなにかわいい孫娘と一緒に暮らして、デートまでしてくれるんだから倫さんは幸せだな」

「そうか? 彼氏がおらんのも問題だ。このままじゃ結婚できん」

 祖父は照れ隠しで言っただけなのかもしれないが、私はその言葉を聞いてわかりやすく口をへの字に曲げた。
 そんなやり取りを見て、周囲にいた中高年のおじさんたちがアハハと笑う。

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