憧れのCEOは一途女子を愛でる
「結婚だけが幸せじゃないよ。いろんな生き方があるからね」

 これに関しては、世代が違うのもあって祖父とはまったく意見が合わない。
 私が二十代のうちに結婚をして早く子供を産んでほしいと祖父が望んでいるのは知っている。
 だけど人それぞれの幸せの形があっていいはずだし、私は自分の幸せは自分で決めたい。
 
「倫さんは冴実ちゃんを心配してるだけだよ」

 辰巳さんの穏やかな声を聞いていると、次第に口角が上がっていくから不思議だ。
 私の祖父はぶっきらぼうで頑固なところがあるけれど、辰巳さんはとても温厚だから話すたびに癒される。

「でも……今は仕事が楽しいからなぁ」

「出世がしたいのかい?」

「そういう欲はないけど、責任もあるし、がんばりたいの」

 私が仕事人間になるなんて、学生時代の自分からは想像もつかない。
 元カレと付き合っていたころは恋愛がすべてで、なによりも恋人を優先していた。
 だけどその恋もうまくいかず、就職してからの私は恋愛から遠ざかり、心血を注げる対象は仕事だけになったのだ。
 仕事での成果は次のやりがいに繋がっていくから、私にとっては恋愛よりもわかりやすい。

「すごく素敵でカッコいい女性の上司がいて、その人が私に目をかけてくれてるんですよ」

「へぇ、そうなんだね」

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