憧れのCEOは一途女子を愛でる
 商品部の部長は、五年前にヘッドハンティングでやってきた伊地知(いじち)さんという女性なのだが、私が新入社員のころから真剣に仕事に取り組む姿勢をとても評価してくれている。

 ジニアールは“アミュゾン”という自社ブランドを商品展開しているのだけれど、私は商品部の人間としてなにができるのか、退勤後や休日でも常に考えるようになった。今ではオンもオフもない。
 伊地知部長が私に期待してくれているからこそそれに応えたいし、努力は実を結ぶと信じたい。

「だけど彼氏はいなくても、気になる程度の男もいないの?」

「うーん……気になるっていうか、すごく憧れてる人ならいるかな。昔から尊敬しているんです」

 意味深な発言をしてしまったが、今咄嗟に頭に思い浮かんだ人は、ジニアールの社長だった。
 とはいえ私が恋人になれるとは微塵も思っていない。対面できちんと話したこともないのだから。
 社長は本当に素晴らしい人で、日々の努力を惜しまないというモットーにも共感できる。
目を奪われるのは女性だけではなく、あんなふうにカッコよくなりたいと憧れて目標にする男性もきっと多いはずだ。

「尊敬してる男でも恋人候補にはなれないのかい?」

「恋人だなんてとんでもない。雲の上の存在で手を伸ばしても届かない人なの。それに私は、今は恋愛より仕事で頭がいっぱい」

「うちの孫も同じようなことを言っとるわ」

私の発言を聞き、辰巳さんが肩を落として苦笑いをした。
 辰巳さんのお孫さんの話は今までに詳しく聞いたことはなかった。たしか一緒に暮らしてはいなくて、私より六歳ほど年上で男性だったはずだけれど、それくらいしか知らない。

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