恋してはいけないエリート御曹司に、契約外の溺愛で抱き満たされました


 契約結婚、偽装の妻……。

 突然の申し出に思考回路は混乱を極めていた。

 たとえ契約、偽装だとしても、筧地所という大会社を背負う彼の相手が私に務まるのだろうか。

 そんな戸惑いを抱えながら、同時に自分の心が幸せを感じられるのかを真剣に自問自答する。

 筧さんの偽装の妻になることで、私の未来は今より明るい方向に向かうのだろうか。


『大丈夫か』

 筧さんに腕を掴まれ、そう訊かれた、あのときの瞬間が脳裏に蘇る。

 あの瞬間、私はほかの誰かのビジョンで世界を見ているような感覚に陥った。

 それくらい神々しく、非現実的だった。

 あのとき見た夢は、まだ続いているのだろうか……?

 だとすれば、私はその夢に自分の未来を託してみてもいいと、ふっと胸がわずかな期待に包まれた。


「私なんかに ……務まりますか?」


 涙で濡れた目で筧さんを見つめる。

 気づけばそう口にしていて、自分でもハッとした。

 筧さんの親指がそっと涙袋に触れる。


「君にしか頼めない」


 濡れた目もとを拭った筧さんは、微笑を浮かべて私の顔をじっと見つめ返した。

< 102 / 272 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop