Lost at sea〜不器用御曹司の密かな蜜愛〜
* * * *

 翔と再会した日から数日後。六花は自作のアクセサリーを持って式場を訪れた。そこで初めて萌音と対面し、同じ年齢ということに加え、お互いに物を作るのが趣味ということで意気投合したのだ。

 翔は六花の作ったネックレスやティアラを見て、彼女に仕事の依頼をした。数枚のデザイン画を渡し、
「これをベースに、阿坂さんなりのオリジナリティを付け加えて作ってもらってもいい?」
と言った。

 そんなふうに依頼をされたのが初めてだった六花は、ちゃんとやり切れるか不安を残しながらも、今後の生活を考えた時のことを考え、引き受けることにした。

 だってこんなチャンス、この先にあるとは思えないもの。

 家に持ち帰った六花は、デザイン画を眺めていた。三枚の紙に描かれていたのは、鉛筆で描かれたネックレス・ティアラ・イヤリングで、それぞれがウエディングドレスに合わせることを想定されているのがわかる。

 どれもこのまま作ったって十分過ぎるくらい素晴らしいもの。でもそれに私らしいオリジナリティを追加しなければならない。一体どうしたらいいのかしら……。

 悩んでいた六花の目についたのは、色とりどりの輝きを放つシーグラスと、生まれてくる娘のためにと買いそろえていたお姫様が出てくる絵本たちだった。

 昔から大好きだったお姫様。性格だって境遇だって違うけど、どのお姫様にも心を惹かれた。

 これで作ってみよう。お姫様それぞれのカラーを活かしながら、デザインを少しいじったりして……その日から夢中になって作り続け、出来上がるとすぐに翔に連絡を入れて作った作品を持っていった。

 童話シリーズと名付けた作品は、赤・青・黄の要素を取り入れながら、デザインによって花や葉のモチーフ、カットを変えたビーズや石を組み込んだ。それぞれが全く違う印象になるように考えて作り上げた。

 それらを見た翔は満足気に大きく頷いた。

「すごいね。こんなに素晴らしいものになるとは思わなかったよ」
「良かった……あ、ありがとうございます!」
「本当に今まで趣味でだけやってたの?」
「本職のほうが忙しかったので……。ストレス解消というか、こういうものが得意な方はたくさんいますからね」
「ふーん……なるほど」

 何やら考え事をしながら、翔は萌音と顔を合わせると互いに頷く。

「実は阿坂さんに頼みたいことがあってね」
「頼みたいこと……ですか?」
「うん。ここからは仕事の相談になるんだけど」

 仕事という言葉を聞いて六花は驚いたように目を見開いた。
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