Lost at sea〜不器用御曹司の密かな蜜愛〜
二人の間に暫しの沈黙が流れる。それを破ったのは宗吾の方だった。六花を見つめたかと思うと、腰に手を回して彼女の体を引き寄せる。
「ちょっ、何して……!」
「あんなに結婚したがってたのに諦めたの?」
「そ、それは……」
宗吾は六花の体を壁に押し付けると、彼女の両足の間に自らの足を差し込んだ。そのまま覆い被さったため、周りからは六花の姿は全く見えなくなる。
「やっぱりお前がいい」
「えっ……」
「そろそろ結婚も回避できない事態になって来たんだ。だから本気で結婚を考えてる」
本気で"契約結婚"を考えているということ? 期待していたわけじゃないけど、この人は本当に結婚を考えていないのね……だとしたら、娘のことを知られるわけにはいかない。
「お見合いだって進んでいるんでしょ? じゃあその人と結婚すれば良いじゃない。いずれは跡取りのことだって考えなきゃいけないわけだし……」
「聞いてたか? 俺はお前がいいんだ」
どうせ気が楽とかそんな理由に違いない。あの時がそうだったからーーでも今の私には大切な娘がいる。そんなふうに結婚したって、幸せになれるとは思えなかった。
とりあえず早くこの場を去ろうーー宗吾の胸をグッと両手で押して距離を取ろうとする。
「私である理由が見つからないわ。別に付き合ってるわけじゃないし、誰でもいいのならもっとあなたに相応しい人がいるでしょ?」
それで宗吾が引くと思っていたが、まるでそう言われるのを見越していたかのようにニヤッと笑うと、スーツのポケットからスマホを取り出す。
「これ、覚えてるか?」
意味がわからず、画面に映し出された写真を凝視する。そしてそれが何かわかった六花の顔から血の気が引いていく。
「これって……」
「そう。あの時に書いた婚姻届」
「……まだ持ってたの?」
「俺にとって大事な切り札だからね。どうする? 今すぐ提出してもいいんだけど」
「やめてよ! 私には無理って言ったじゃない! それでもう終わりでしょ?」
「……終わりじゃないよ。約束は一ヶ月だった。それなのにその前に勝手にいなくなったんだから、契約は不履行だろ」
その通りだーー六花は下唇を噛む。確かに約束を破ったのは私。
「……どうしたらその婚姻届を返してくれるの?」
宗吾は体を離し六花を真っ直ぐに見つめてきたが、彼と目を合わせたくなくてすぐに顔を背けた。
「ちょっ、何して……!」
「あんなに結婚したがってたのに諦めたの?」
「そ、それは……」
宗吾は六花の体を壁に押し付けると、彼女の両足の間に自らの足を差し込んだ。そのまま覆い被さったため、周りからは六花の姿は全く見えなくなる。
「やっぱりお前がいい」
「えっ……」
「そろそろ結婚も回避できない事態になって来たんだ。だから本気で結婚を考えてる」
本気で"契約結婚"を考えているということ? 期待していたわけじゃないけど、この人は本当に結婚を考えていないのね……だとしたら、娘のことを知られるわけにはいかない。
「お見合いだって進んでいるんでしょ? じゃあその人と結婚すれば良いじゃない。いずれは跡取りのことだって考えなきゃいけないわけだし……」
「聞いてたか? 俺はお前がいいんだ」
どうせ気が楽とかそんな理由に違いない。あの時がそうだったからーーでも今の私には大切な娘がいる。そんなふうに結婚したって、幸せになれるとは思えなかった。
とりあえず早くこの場を去ろうーー宗吾の胸をグッと両手で押して距離を取ろうとする。
「私である理由が見つからないわ。別に付き合ってるわけじゃないし、誰でもいいのならもっとあなたに相応しい人がいるでしょ?」
それで宗吾が引くと思っていたが、まるでそう言われるのを見越していたかのようにニヤッと笑うと、スーツのポケットからスマホを取り出す。
「これ、覚えてるか?」
意味がわからず、画面に映し出された写真を凝視する。そしてそれが何かわかった六花の顔から血の気が引いていく。
「これって……」
「そう。あの時に書いた婚姻届」
「……まだ持ってたの?」
「俺にとって大事な切り札だからね。どうする? 今すぐ提出してもいいんだけど」
「やめてよ! 私には無理って言ったじゃない! それでもう終わりでしょ?」
「……終わりじゃないよ。約束は一ヶ月だった。それなのにその前に勝手にいなくなったんだから、契約は不履行だろ」
その通りだーー六花は下唇を噛む。確かに約束を破ったのは私。
「……どうしたらその婚姻届を返してくれるの?」
宗吾は体を離し六花を真っ直ぐに見つめてきたが、彼と目を合わせたくなくてすぐに顔を背けた。