Lost at sea〜不器用御曹司の密かな蜜愛〜
 唇が離れると、宗吾は名残惜しそうに六花の唇に指で触れる。

「今の俺、六花にはどう見える?」
「いつもと変わらず自信満々……かな」
「なるほど……そう見えてるんだ」
「違うの?」
「実はずっと六花に断られるんじゃないかって気が気じゃないんだ。不安でいっぱいだよ。でももう後悔したくないから、今出来ることをしようと思ってる」
「……それが親に紹介なの? しかも今って仕事中じゃない?」
「大丈夫。ちゃんとアポは取ってあるから」

 再びキスが始まり、そっと目を閉じる。もっと怒って抵抗しなくちゃいけないのに、つい受け入れてしまう。

 もし子どもがいると知った時、彼は同じような言葉をかけてくれるのかしら……そう考えると六花にも不安しか残らない。

 お互いに不安を抱えながら一緒にいるなんて変な話。こんな状況でうまくいくの?

 秘密なんてない方がいいと思うのに、これがあるから偽りの関係を続けられるなんて滑稽でしかない。

「好きだよ。俺の言葉、まだ信用出来ない?」
「……だってずっとこれは疑似恋愛だって思って生きてきたの。いきなり考えを改めるのは無理」

 宗吾は苦笑しながら息を吐いた。

「だよな。そう言われると思ってた」

 こんなに心がモヤモヤするのはどうしてだろう。きっと自分が逃げていることに気付いているんだ。

 早く打ち明けてまーちゃんの元にだって戻れるはずなのに、それをしないのは私のわがまま。だって子供がいるとわかれば宗吾の気持ちが変わってしまうかもしれない。

 ただーー不安はそれだけではないような気がしていた。こんなに愛を囁かれても、何かが心に引っ掛かって前に進むのを躊躇ってしまう。その原因が何なのか、六花にはなんとなくわかっていた。

 きっと私、"アサカさん"のことが気になってるんだ。あれだけ宗吾が好きだった人だもの。そんな簡単に忘れるなんて出来ないよね。

 元々好きな人の元カノとか知りたくないのに、失恋して苦しんでる姿を見たし、彼女の名前を苦しそうに連呼する宗吾を目の当たりにしてる。

 どうしてあの時、あんなことしちゃったんだろう。今となってはトラウマでしかない。

 今も彼女を思い出したりする? やっぱりアサカさんと結ばれたかった? 知ればスッキリするかも知れない。でも傷付く可能性だってある。

 あぁ、そうか。宗吾からの愛に自信が持てないのは、アサカさんの影に怯えている自分がいるからだとようやく気付いた。
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