Lost at sea〜不器用御曹司の密かな蜜愛〜
 六花の言葉を聞いた社長は満面の笑顔を浮かべ、満足気に大きく頷いた。

「そんなふうに言ってもらえると私も嬉しいよ。もし六花さんさえ良ければ、宗吾をお願いしても良いだろうか。たぶんこの子はあなたじゃないとダメらしいから」

 宗吾はきっと自分の想いの証明がしたかったのだろう。どんなに『愛してる』と囁いてくれたって、私が信じなければ意味がない。真実を知る人に背中を押してもらおうとしたに違いない。

 それに関しては成功だろう。しかし逆に六花を不安にもさせた。

「あの……もし私が彼の気持ちを受け止めたとして、お、お父様はそれで良いのでしょうか? 私なんてただの一般人ですし、彼に相応しいとは思えなくて……」

 自虐的な言葉を口にして俯くと、スカートを握りしめる。

「先ほども話したように、宗吾はどこか空気を読んでしまう癖があってね。口ではぶっきらぼうに文句を言うけど、兄や私のために会社を継ぐことを決めてくれた。根はすごく優しい子なんだ。その子がここまで熱心に想いを寄せる人を見つけられたのだから、応援するのが親として当然のことだしーー何より君以外とは結婚はしないらしいよ」

 その時に扉がノックされ、秘書の女性が入って来る。

「社長、そろそろお時間です」
「あぁ、わかった。では私はこれで。また近いうちに会えるのを楽しみにしているよ」
「あっ、はい、貴重なお話をありがとうございました」

 二人は立ち上がって社長が部屋から出ていくのを見送り、しばらくしてから二人も社長室を後にした。エレベーターの到着を待つ間、六花は不機嫌そうに眉間に皺を寄せる。

「お疲れ様。ありがとう」

 六花が頷くと、宗吾は小さく微笑んだ。

「いろいろ唐突過ぎるんだけど」
「ごめん。これしか方法が浮かばなかったんだ……。俺がずっと六花を想っていたんだってことを証言してもらいたくて。だって何を言っても六花は信用してくれないだろ?」

 それは違う……信用するとかしないの問題じゃない。宗吾の父親の話を聞いて、彼が自分を想ってくれていたことがちゃんとわかった。それなのに心の中には拭いきれない不安が存在する。

 それはきっと自分自身に自信が持てないからに違いない。宗吾の愛を信じることは出来ても、あの人に勝てるほどの自信は六花の心にはまだ存在しなかった。
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