Lost at sea〜不器用御曹司の密かな蜜愛〜
◇ ◇ ◇ ◇

 宗吾が異変を感じたのは、六花がエレベーターに乗ってから十五分ほど経った時だった。

 兄たちとの会話を終わらせ車に戻ったが、六花がなかなか戻って来ない。

 おかしい。お手洗いに行くにしては遅すぎるーー妙な胸騒ぎを感じ、慌てて車を飛び出した。エレベーターに乗って一階へ行き、受付の女性に声を掛ける。

「その方でしたら、二十分ほど前に外に出て行かれましたよ。少し顔色が悪いように見えましたが、その後はお戻りにはなっておりません」
「そうか……ありがとう」

 話を終えた宗吾は唇を噛み締めた。二人の姿を見つけた時に焦りを感じ、六花が誤解しないようにと気をつけていたはずが、彼女の笑顔を見たことでそれが薄れてしまった。

 安心していたわけではない。初日はあんなに六花の動きに警戒していたのに、心を開き始めた六花にどこか気が緩んでしまっていた。

 一体何が彼女にそんな行動をとらせるに至ったんだろう。だが兄とは初対面だし、やはり朝夏さんだろうか。

 六花は俺が今も朝夏さんを好きなのだと思い込んでいた。彼女と対面したことで、六花の心に何か変化をもたらしたことは確かだろう。

 兄たちが現れた時点で、もっと警戒すべきだった。父親との会話で六花が俺の気持ちを少しでも信じる気になってくれたと安堵してしまった自分を悔いた。

 これじゃああの日と同じじゃないか……! 逃さないと言ったのに、目の前からあっという間に六花はいなくなってしまった。

 その時に宗吾のスマホが鳴り、画面に映し出された名前を見て慌てて外に出る。

「はい、宗吾です」

 電話に出た宗吾は、相手からの話の内容に耳を傾ける。そしてその場で大きく項垂れた。

「……わかりました。では明日伺います。ご連絡感謝します。本当に申し訳ありませんでした」

 電話を切り、両手で頬を叩く。俺はなんて不甲斐ないんだ。同じ失敗は繰り返さないーーそう決めて六花との再会を果たしたのに、一度ならず二度も同じ状況に彼女を追い込んでしまった。

 宗吾はスマホを握りしめ、今度は別の人物に電話をかける。

「俺です。あの……申し訳ないのですが、もう一度だけ力を貸してください」

 電話を切った宗吾は、スマホを握りしめて大きく息を吐く。きっとこれが最後だーー今度こそ未来への一歩を踏み出す。
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