幼なじみ社長は私を姫と呼んで溺愛しています
私と結婚したのは償いではなかったということだろうか。

「俺は姫に釣り合う男になりたかったと言っただろう?
色々考えた結果が『ハピネス』の経営だ。
姫を養っていける経済力を身につけたら、安心して俺と結婚してくれると思った。
姫に本当のことを何も言わずに…ごめん。卑怯だよな」

首をぶんぶんと横に振った。

卑怯も何もない。

私は父に全て聞いても、千紘から話を聞いても、千紘が悪いなんてこれっぽっちも思っていない。

…そうだ。思い出した。

『姫がおうちで泣いてないか心配だから、公園に来るのがおそい日は呼びに行くね』

あの日、千紘はきっと心配して見に来てくれたんだ…

「…千紘がいたから、お母さんが怖くても、ほったらかしにされても、寂しくなかったんだと思う」

誰にも言えない寂しさを、千紘だけが気づいてくれていた。

学年が違っても、公園に行けば千紘が絶対に待っていてくれるから悲しくなかった。

「千紘がいたから救われてた。
だから、千紘に自分を責めてほしくない。
私だって、千紘を責める気持ちなんか全然ない。
もう忘れよう?私は今ここに、昔みたいに千紘がいてくれるだけで嬉しい」

千紘は眉を寄せて端正な目元を歪ませ、私を抱きしめた。

なんとなく、泣いている顔を見せたくなくてそうしているような気がして、私もその大きな背をぎゅっと包み込んだ。

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