一晩だけのつもりだったのに、スパダリ専務の甘い手ほどきが終わりません……なぜ?

「出水さん」

 食後に海辺を散歩をしていると、瀧澤がジャケットを貸してくれた。海風が強く、カッターシャツ一枚だと寒そうに見えたのだろう。
 
「ありがとうございます」

 ちゃんと女性として扱われていることが、嬉しくもあり、くすぐったくもあった。

「あのっ!無茶なお願いを聞いていただいて、本当にありがとうございました!」

 光莉はずっと言いたいと思っていた御礼をして、深々と頭を下げた。

「私、瀧澤専務のおかげで恋愛に前向きになれそうです」

 光莉は今、恋愛をしてみようという意欲に満ち溢れていた。敬遠していた合コンとやらにも行ってみたいし、奈緒に紹介したいと言われていた男性とも会ってみようと思う。
 未来への展望を持ち、明るい表情の光莉に対し、瀧澤は浮かない顔をした。

「そんなに焦らなくていいんじゃないか?」
「……え?」
「遠慮しなくていい。私のところでゆっくりリハビリしてもらって構わない」
「お手を煩わせてはご迷惑に……」
「他の男のところに行って欲しくないと言っている」
「それじゃあ……お言葉に甘えて?」

 どうして瀧澤が光莉の恋人作りに口を挟もうとするのだろう。訳がわからないうちに額にキスをされる。
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