出会ったのは間違いでした 〜御曹司と始める偽りのエンゲージメント〜
食事がすべて終わると龍は「海岸まで降りてみないか?」と実乃莉を誘った。もちろん実乃莉は、それに二つ返事で頷く。
眼下に見えていた海岸までは、邸宅の裏から降りられるようになっていた。
「海っ! こんなに近くで見るのは久しぶりです!」
ゲスト用に置いてあったビーチサンダルに履き替えていた二人は、波打ち際ギリギリまで寄っている。キャアキャアと声を上げはしゃぐ実乃莉を、龍は嬉しそうに眺めていた。
「実乃莉、転ぶなよ? 着替えはさすがにないぞ?」
「だって! 楽しいです!」
童心に返ったように波と追いかけっこをしながら、実乃莉は笑顔で答えた。
「そんなふうに笑えるんだな。実乃莉は」
実乃莉に近づくと龍はその手を取りしみじみと口にする。そんな龍を見上げ、実乃莉はまた笑顔を見せた。
「龍さんがいるからです。こんなに楽しんでいいんだって思えるのは」
「俺も。こんな、なんでもないことが楽しいし、幸せだって思えるのは実乃莉のおかげだ」
龍は穏やかな表情で実乃莉の顔を見つめている。その顔を見つめ返して、実乃莉もまた、この波が刻む心地よいリズムのように穏やかな気持ちになった。
「実乃莉。受け取ってもらいたいものがある」
そう言うと龍はポケットに手を入れる。そこから取り出されたものは、西に傾きかけた柔らかな陽の光を受けキラリと光った。
「最初から回りくどいことをせずに、ストレートに言っておけばよかったな」
実乃莉に向くと、龍はその左の手を持ち上げた。
「実乃莉。俺と結婚して欲しい。お前といるためなら俺はなんだってするから」
(なんて……幸せなんだろう……)
間違いだと思った。叶わない願いだと思った。そして、遠回りもした。
それはすべて、この瞬間のためにあったのかも知れないと、今は思う。
「龍さん。大丈夫です。父は無理に龍さんを後継者にしようなんて思っていません。私たちは、私たちが思う道を進んでいいんです。私は一生、龍さんを応援し続けますから」
実乃莉の頰に伝う涙を、龍はそっと指で掬う。それから「ありがとう」と小さく呟くと、実乃莉の薬指に指輪をゆっくりと嵌めた。
実乃莉は自分の指に美しく光る石を眺めたあと、龍と手のひらを合わせて指を絡めた。
「龍さん。私と出会ってくれて……ありがとうございます」
見上げると龍は目を細め笑みを浮かべた。
「出会ったのは、間違いなんかじゃないからな」
そう言って微笑んだ龍の顔はゆっくりと実乃莉に近づく。
そこから伝わる熱は、実乃莉の唇を優しく包んでいた。
眼下に見えていた海岸までは、邸宅の裏から降りられるようになっていた。
「海っ! こんなに近くで見るのは久しぶりです!」
ゲスト用に置いてあったビーチサンダルに履き替えていた二人は、波打ち際ギリギリまで寄っている。キャアキャアと声を上げはしゃぐ実乃莉を、龍は嬉しそうに眺めていた。
「実乃莉、転ぶなよ? 着替えはさすがにないぞ?」
「だって! 楽しいです!」
童心に返ったように波と追いかけっこをしながら、実乃莉は笑顔で答えた。
「そんなふうに笑えるんだな。実乃莉は」
実乃莉に近づくと龍はその手を取りしみじみと口にする。そんな龍を見上げ、実乃莉はまた笑顔を見せた。
「龍さんがいるからです。こんなに楽しんでいいんだって思えるのは」
「俺も。こんな、なんでもないことが楽しいし、幸せだって思えるのは実乃莉のおかげだ」
龍は穏やかな表情で実乃莉の顔を見つめている。その顔を見つめ返して、実乃莉もまた、この波が刻む心地よいリズムのように穏やかな気持ちになった。
「実乃莉。受け取ってもらいたいものがある」
そう言うと龍はポケットに手を入れる。そこから取り出されたものは、西に傾きかけた柔らかな陽の光を受けキラリと光った。
「最初から回りくどいことをせずに、ストレートに言っておけばよかったな」
実乃莉に向くと、龍はその左の手を持ち上げた。
「実乃莉。俺と結婚して欲しい。お前といるためなら俺はなんだってするから」
(なんて……幸せなんだろう……)
間違いだと思った。叶わない願いだと思った。そして、遠回りもした。
それはすべて、この瞬間のためにあったのかも知れないと、今は思う。
「龍さん。大丈夫です。父は無理に龍さんを後継者にしようなんて思っていません。私たちは、私たちが思う道を進んでいいんです。私は一生、龍さんを応援し続けますから」
実乃莉の頰に伝う涙を、龍はそっと指で掬う。それから「ありがとう」と小さく呟くと、実乃莉の薬指に指輪をゆっくりと嵌めた。
実乃莉は自分の指に美しく光る石を眺めたあと、龍と手のひらを合わせて指を絡めた。
「龍さん。私と出会ってくれて……ありがとうございます」
見上げると龍は目を細め笑みを浮かべた。
「出会ったのは、間違いなんかじゃないからな」
そう言って微笑んだ龍の顔はゆっくりと実乃莉に近づく。
そこから伝わる熱は、実乃莉の唇を優しく包んでいた。