出会ったのは間違いでした 〜御曹司と始める偽りのエンゲージメント〜
「……おはよう」
カーテンの隙間から差し込む光が薄らと部屋の中を照らしている。気怠さと共に目を覚ました実乃莉の瞳には、微笑みを浮かべる龍の顔が映っていた。
「おはようございます……」
まだ半分夢の中といった様子の実乃莉の額に、龍はチュッと音を立てて唇を落とす。くすぐったくて首をすくめながら実乃莉は尋ねた。
「今、何時ですか?」
「八時前。もうちょっとゆっくりしてても大丈夫だろ?」
「だめです。そろそろ起きて仕事行く用意しないと」
起きあがろうとする実乃莉を抱きしめると、龍はその体に擦り寄った。
「嫌だ。行きたくない。今日はずっとこうしていよう。お前だって……そう思うよな?」
駄々っ子のようになったかと思えば、最後は同意を求めるように言った。それは実乃莉に、ではなく丸みを帯びずいぶんと大きく迫り出してきたお腹に向かってだ。
「お父さん。お仕事頑張ってって言ってます。ほらっ」
布団の中で龍の手に自分の手を重ねて言う。ちょうど、同意するようにぽこっと胎動が起こった。
「それに龍さん。今日はみんな、お祝いしたくて会社で待ってますよ」
今日は七月三十一日。二人が出会って訪れた、二度目の龍の誕生日だ。
早いもので、結婚してから半年以上が過ぎた。
式はともかく、籍を入れない限り、さすがに一緒に暮らすのは許してもらえないだろうから、と龍は早々に鷹柳家に結婚の承諾をもらいに行った。そしてあっさりとそれは許可され、気づけば龍の立てた計画通りに事は進んでいた。
プロポーズから三ヶ月も経っていないその年の末、二人は入籍した。その後すぐローマに新婚旅行へ行き、帰ってからは会社近くに借り直したマンションで暮らし始めた。
そして結婚式は春。桜が咲き誇る中神社で行われたのだが、その時には早くも実乃莉のお腹に新たな命が宿っていたのだ。
まだ龍は、名残惜しそうにギュウと実乃莉を抱きしめていた。
「夜は二人でお祝いしましょうね。龍さんの好きなもの、たくさん作っておきます」
実乃莉はまだ龍の会社で仕事を続けている。今は短時間勤務にしているが、出産後も育児休業を取ったあと復帰するつもりでいた。
「……しかたない。実乃莉の作る美味い飯を食えるなら頑張れる」
そう言って龍は笑った。
きっと、こんな無邪気に笑う顔も、自分に甘えてくる猫みたいな姿も、誰も知らない自分だけに見せる特別な姿。そしてきっと、素敵な、父親としての顔もたくさん見せてくれるだろう。
――実乃莉は、そんな明るい未来に思いを馳せていた。
Fin
カーテンの隙間から差し込む光が薄らと部屋の中を照らしている。気怠さと共に目を覚ました実乃莉の瞳には、微笑みを浮かべる龍の顔が映っていた。
「おはようございます……」
まだ半分夢の中といった様子の実乃莉の額に、龍はチュッと音を立てて唇を落とす。くすぐったくて首をすくめながら実乃莉は尋ねた。
「今、何時ですか?」
「八時前。もうちょっとゆっくりしてても大丈夫だろ?」
「だめです。そろそろ起きて仕事行く用意しないと」
起きあがろうとする実乃莉を抱きしめると、龍はその体に擦り寄った。
「嫌だ。行きたくない。今日はずっとこうしていよう。お前だって……そう思うよな?」
駄々っ子のようになったかと思えば、最後は同意を求めるように言った。それは実乃莉に、ではなく丸みを帯びずいぶんと大きく迫り出してきたお腹に向かってだ。
「お父さん。お仕事頑張ってって言ってます。ほらっ」
布団の中で龍の手に自分の手を重ねて言う。ちょうど、同意するようにぽこっと胎動が起こった。
「それに龍さん。今日はみんな、お祝いしたくて会社で待ってますよ」
今日は七月三十一日。二人が出会って訪れた、二度目の龍の誕生日だ。
早いもので、結婚してから半年以上が過ぎた。
式はともかく、籍を入れない限り、さすがに一緒に暮らすのは許してもらえないだろうから、と龍は早々に鷹柳家に結婚の承諾をもらいに行った。そしてあっさりとそれは許可され、気づけば龍の立てた計画通りに事は進んでいた。
プロポーズから三ヶ月も経っていないその年の末、二人は入籍した。その後すぐローマに新婚旅行へ行き、帰ってからは会社近くに借り直したマンションで暮らし始めた。
そして結婚式は春。桜が咲き誇る中神社で行われたのだが、その時には早くも実乃莉のお腹に新たな命が宿っていたのだ。
まだ龍は、名残惜しそうにギュウと実乃莉を抱きしめていた。
「夜は二人でお祝いしましょうね。龍さんの好きなもの、たくさん作っておきます」
実乃莉はまだ龍の会社で仕事を続けている。今は短時間勤務にしているが、出産後も育児休業を取ったあと復帰するつもりでいた。
「……しかたない。実乃莉の作る美味い飯を食えるなら頑張れる」
そう言って龍は笑った。
きっと、こんな無邪気に笑う顔も、自分に甘えてくる猫みたいな姿も、誰も知らない自分だけに見せる特別な姿。そしてきっと、素敵な、父親としての顔もたくさん見せてくれるだろう。
――実乃莉は、そんな明るい未来に思いを馳せていた。
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