出会ったのは間違いでした 〜御曹司と始める偽りのエンゲージメント〜
「あ、あのっ……」

 頰を赤らめて狼狽する実乃莉を見ながら、龍は面白そうに笑っている。

「あんた、想像した通り初心(うぶ)だな。何も本当に、とは言ってない。さっきあんたが俺に言ったのと一緒だ」

 龍に揶揄われているのかと思ったが、自分が先に何を言ったのか思い出してそれを口に出す。

「ふり……と言うことですか?」
「そうだ」

 満足気に龍は頷いている。けれど、実乃莉はさっき自分が言われた言葉を思い出していた。

(それに何のメリットが……)

 ポカンと目を見開いたままの実乃莉に龍は尋ねる。

「あんた、まだ結婚したくないんだろ?」

 まだ、と付けたのは、きっと実乃莉が結婚することから逃れられないと理解しているからだ。実乃莉の家がどんな家なのか、知っているからこその台詞だった。

「……はい。家に指図されるがままに結婚したくないです」
「まあ、そうだよな。俺は結婚自体したくない。だが家からは喧しく言われてるんだ。それも家柄の良い相手と、だと。跡を継ぐわけでもないのにな」

 龍は辟易とした様子で息を吐くとソファの背に凭れかかる。それだけで、今まで相当言われてきたのだと察してしまう。

「で、だ。結婚したくないもの同士、タッグを組んで時間稼ぎをしようかと思うんだが。家柄で言えば、あんたは充分すぎるほどだからな」
「時間稼ぎ……ですか?」
「そう。シナリオはこうだ」

 そう前置きすると、龍はその内容を話し出した。
 
「――と、まぁこんな感じだな」

 まるで、ずいぶん前から考えられていたかのような話を、実乃莉は食べることも忘れて聞き入っていた。

「上手く……いくでしょうか?」

 確かに、龍の作ったシナリオ通りにことが運べば、最低一年は結婚しなくてすみそうだった。

「そうなるように上手く立ち回る必要はあるが……。まぁ、できるだろ」

 龍は揺るぎない眼差しを実乃莉に向けそう言い切ると笑った。
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