出会ったのは間違いでした 〜御曹司と始める偽りのエンゲージメント〜
 ――龍から聞いた話しを掻い摘むとこうだ。
 二か月ほど前、知人の紹介で知り合い何度か会っていたが、ごくごく最近龍から申し込み、交際に発展した。だから見合い話が出たとき言い出せず、龍を交えて高木に断りに行った。
 いずれは結婚も考えているが、まだ交際を始めたばかりのうえ、会社を立ち上げたばかりで軌道に乗ってから婚約をと考えていた……というのがまず前提。
 そのうえで婚約までできるだけ引き伸ばし、どうしようもなくなれば婚約したことにする。そこから結婚までまた時間を稼いだうえで、最終的には龍が浮気をしたことが原因で婚約を解消する。という筋書きだった――

「でも、皆上さんが損されないですか? 浮気だなんて……」

 婚約破棄されたほうは同情されるだけだが、したほうは非難されるだろう。それも、理由が理由だ。けれど、龍は平然としていた。

「いや? むしろ、鷹柳の令嬢と婚約までしておきながら浮気する男が、結婚に向いているはずがない、って思ってもらえるチャンスだな。さすがにもう結婚しろと煩く言われなくなるだろう」

 堂々とした態度の龍に実乃莉は何も言えなかった。確かに普通ならそういう考えに至ってもおかしくない。それで本当に大丈夫なのだろうかと思いながらも実乃莉は頷いていた。

「……わかりました」
「よし。じゃあ契約成立だ」

 満面の笑みをたたえた龍は実乃莉に手を差し出す。
 その姿は、この人についていけば間違い、と思わせてくれるような風格を兼ね備えている。サバンナで群れを護る絶対的王者、ライオンのように。
 実乃莉はおずおずと自分の手を差し出すと、その大きな手の平に自分の手を重ねる。それを龍はぎゅっと握った。

(あ……)

 その手から伝わる熱にクラクラしそうだった。
 今までも祖父や父に随行した公式の場で同じことをすることは何度もあった。なのになぜか今、実乃莉の鼓動は勝手に早くなり、その音を自分自身に聴かせていた。
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