出会ったのは間違いでした 〜御曹司と始める偽りのエンゲージメント〜
 また車に乗り、龍と出会ったホテルのある繁華街に戻る。わざわざそこに戻ったのには理由があった。

「すみません、付き合わせてしまって」

 駅の近くにあるコインロッカーから紙袋を取り出すと実乃莉は謝った。わざわざこの荷物を取りに行くのに付き合わせてしまったからだ。

「いや? 謝る必要はない」

 龍はそう言ってから、実乃莉が肩から下げようとしていた袋の持ち手を掴む。

「荷物、持つよ」

 あまりにも流れるように、嫌味もないその行動に実乃莉は遠慮する間もない。

「ありがとう……ございます」

 頰を赤らめながら素直に礼を言う実乃莉に笑みを返すと、龍は先に歩き出した。

「にしても、見合いの前にショッピングか?」

 開いている袋の口から中身が見えたのか龍は尋ねる。

「は……い。買ったのは今着ているもののほうですが……」

 ピタリと足を止め龍は振り返ると、実乃莉の全身を確認するように眺めていた。

「どおりで……。ずっと違和感があったはずだ」

 龍は考え込むように実乃莉を見ている。やはりこの格好はおかしかったのだろうかと、実乃莉は恥ずかしさから身を小さくする。
 同じくらいの年齢の女の子たちが同じような服装で颯爽と歩いているのに、実乃莉はいまだに歩くことさえなんとなくぎこちない。

「ま、いいか」

 龍は一人納得したように呟くと動き出し、実乃莉がそのあとに続こうとしたときだった。

(あっ!)

 地面の凹凸にヒールを引っかけ、実乃莉はバランスを崩す。倒れる! と反射的に目をつぶると、またスパイシーで、それでいて甘い香りが実乃莉を覆っていた。

「っと、危ない。大丈夫か?」

 恐る恐る目を開けて顔を上げると、龍は何事もないかのように実乃莉を見下ろしていた。

「だっ、大丈夫です。すみません!」

 慌てて離れようとするが、バランスを崩したまま龍の腕に収まる実乃莉は、ただバタバタともがいているだけだった。
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