出会ったのは間違いでした 〜御曹司と始める偽りのエンゲージメント〜
 実乃莉は立ち上がると会釈をする。それに気づいたショートカットの似合う女性はニコリと笑った。
 深雪は彼女を応接ソファに促すと振り返る。

「実乃莉ちゃん。ちょっとこっちに座ってもらっていい?」
「はい」

 立ち上がりそこに向かうと深雪の隣に座る。深雪は笑顔でその女性の紹介を始めた。

「彼女は相田(あいだ)千佐都(ちさと)さん。ちょっとした知り合いでね、ここで働いてくれることになったの」
「初めまして。相田です」

 実乃莉は千佐都に頭を下げると自分の名前を告げた。

「私ももうあと三週間で退職でしょ? なんとかもう一人引き継いでくれる人見つかってホッとしてる!」

 深雪は安心したように明るく声を上げるが、実乃莉は深雪がいなくなる寂しさが込み上げていた。
 元々短期の手伝いのつもりだった深雪だ。いなくなってしまうのはわかっていたが、そのカウントダウンが始まっているのを実感してしまう。

「実乃莉ちゃん、そんな顔しないで? いつでもうちに遊びに来てね」
「……はい」

 実乃莉は泣きそうになるのを堪えながら頷いた。

「ところで龍は? 千佐都ちゃんと顔合わせしようと思ったんだけど……。昨日からメッセージに既読もつかないし」

 龍の姿を確認するように深雪はキョロキョロと部屋を見渡した。

「それが……」

 実乃莉は原田から受け取ったメモを取り、それを深雪に渡すと状況を説明した。

「こういうことって、よくあるんですか?」

 おずおずと実乃莉が尋ねると、深雪は「うーん」と唸る。

「無いことはないんだけど……。ね? 千佐都ちゃん。あ、彼女は元プログラマーなの。今は子どもさんも小さいから離れてるんだけど」

 千佐都はそれに頷き「システムにエラーはつきものなので、よくあるといえばある話です」と中性的な顔に似合うハスキーな低めの声で答えた。

「そうなのよねぇ。ただ、こんな人数出して、原田さんも龍も対応してるっていうのは会社始まって以来かも」
「そう……なんですか……」

 不安を感じ小さく口にすると、深雪は励ますように明るい表情を見せた。

「大丈夫。龍がいるんだもん。私たちは私たちのできることをしましょう?」
「……はい」

 実乃莉はそれに勇気をもらいながら頷いた。

「私も何かあれば手伝います」
「ほんと? 千佐都ちゃん。じゃあ今日からってことで!」

 手を合わせて千佐都に言うと深雪は立ち上がる。

「じゃ、始めましょっか!」

 その勇ましい掛け声に、実乃莉は気持ちを奮い立たせた。
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