出会ったのは間違いでした 〜御曹司と始める偽りのエンゲージメント〜
 大規模なシステムエラーは無事解決した。けれどそこから、神様が試練を与えているのかと思うほどトラブルが続いていた。
 毎日のように入る大小様々なクレームにシステムエラー。この一週間、こうも重なるものものかと言いたくなるほどの様々なトラブルに、社員たちは疲弊しているようだった。
 そしてその陣頭指揮を取る龍は、さぞかし疲れているだろう。そう思っているが、一目すら会えないまま金曜日の夕方になった。

「もう、お祓いでもしてもらったほうがいいんじゃないかしら?」

 帰り支度をしながら深雪はぼやいている。今深雪がいるのは本当なら社長、つまり龍の机だ。深雪は早々に自分の使っていた机を千佐都に開け渡し、「仕方ないわね」と言いながら遠慮なくそこを使っていた。

「確かに。ここまでトラブル続きはなかなか無いですね」

 千佐都はキーボードを叩きながら深雪に続いた。千佐都は事務職の経験はないらしいが、実乃莉より社会人の経験は長い。まだ五日目だと思えないほど会社に馴染み、仕事も難なくこなしていた。

「龍さんの代わりに私、お祓い行こうかな……」

 千佐都の隣の席で、誰に言うわけでもなくポツリと呟く。

「まあ……。その気持ちもわからないではないかな」

 千佐都の喋り方は素っ気ないが冷たい人ではない。いまだにパソコンのソフトに慣れていない実乃莉に色々と裏技を教えてくれていた。

 深雪は定時になり帰り、その一時間後千佐都も帰って行った。一人きりになると、途端に(あるじ)のいないこの部屋が寒々しく感じた。

(龍さん、ちゃんとご飯食べてるかな……)

 変わらず作っている龍の弁当は、今は夜ご飯になっている。月曜日は冷蔵庫に入れているとメモを残し、念のためメッセージを送っておいた。夜中にその返事が来ていて、食べたこととお礼が短く書かれていたのだ。

「会いたい……な……」

 つい感情を口に出す。その声は虚しく部屋に響くだけだった。

(こんな弱気じゃだめだ……)

 打ち消すように頭を振って顔を上げる。自分の今やるべきことをやらなくては。
 実乃莉はまたパソコンの画面に向かう。来週初めには月末締めの作業が入る。それまでに今日できることに集中した。

「こんなものかな?」

 一息つきパソコンに表示されている時間を見ると、定時は過ぎていた。
 見ないかも知れないが、龍に何かメッセージでも残そうかと実乃莉はメモを取り出した。
 その時突然、ガチャリと社長室の扉が開いた。
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