出会ったのは間違いでした 〜御曹司と始める偽りのエンゲージメント〜
「龍……さん……」
ペンを握ったまま、幻でも見ているのかと呆然とする。
龍は疲れた顔をしているが、実乃莉を見て安心したように息を吐いた。
「よかった……。まだいた」
ゆっくりと実乃莉に歩みを寄せる龍の元へ、実乃莉は駆け寄った。
「お疲れ様です。仕事は落ち着いたんですか?」
近寄ると、龍の顔に疲労の色が浮かんでいるのがより鮮明に見える。そんな龍は苦々しい笑みを浮かべ答えた。
「いや、まだ。弁当食って仮眠取ったらまた出る。SSでうちも関わってるシステムに問題出てて。今は糸井に任せてるが」
「SSでも……」
実乃莉は絶句していた。
深雪の兄で龍の友人が社長をする会社は協力関係にあるし、龍が独立前に関わった案件は今でもサポートしていると聞く。よりによってなぜ同じ時期にトラブルが起こるのか、不安でならなかった。
「そんな顔するなって。大丈夫だ。それより実乃莉。ちょっとこっち」
頭を優しく撫でたあと、龍は実乃莉の手を引き、奥にある自分のスペースに連れて行く。
明かりの付いていない一画には、龍専用のパソコンと長時間座っても疲れないという椅子が置かれている。龍は先に座ると、実乃莉の手首を掴んだ。
「実乃莉、座って?」
他に座るところなどないのに、実乃莉を見上げた龍は満面の笑みを浮かべている。
「えっと、どこに……?」
「ん? 俺の膝の上」
「⁈ ひゃっ!」
言うが早いか、龍は実乃莉の腕を引く。小さく悲鳴のような声を漏らすと、実乃莉はよろけるように龍の膝の上に横向きに乗った。そしてそのまま、たくましい腕の中に閉じ込められていた。
「すっげぇ落ち着く……」
頭の上から心底ホッとしたような龍の声がし、スリっと頬擦りされた気配を感じた。
(よっぽど……疲れてるんだ……)
「私、まだまだ元気です。だから龍さんにその元気を分け与えたいくらいです」
何の励ましにもならないけれど、少しでも癒されて欲しい。その広い胸に顔を埋めて実乃莉は言った。
フフッと笑う気配がして、一層龍の腕に力が入る。胸に押し付けられた耳にはドクドクと血が巡る音が届いていた。
「こうしてるだけでも元気になるよ。ありがとな、実乃莉」
「私だって。今、龍さんに癒されてますから」
こうしていると不安など吹き飛ぶ。そんなことを思いながら実乃莉は顔を上げた。
「じゃあ……俺も、もっと癒されたい」
囁くような笑い声。実乃莉の顔を覗き込む龍の吐息は頰を撫でる。目蓋を閉じると、唇にゆっくりと熱が伝わってきた。
ペンを握ったまま、幻でも見ているのかと呆然とする。
龍は疲れた顔をしているが、実乃莉を見て安心したように息を吐いた。
「よかった……。まだいた」
ゆっくりと実乃莉に歩みを寄せる龍の元へ、実乃莉は駆け寄った。
「お疲れ様です。仕事は落ち着いたんですか?」
近寄ると、龍の顔に疲労の色が浮かんでいるのがより鮮明に見える。そんな龍は苦々しい笑みを浮かべ答えた。
「いや、まだ。弁当食って仮眠取ったらまた出る。SSでうちも関わってるシステムに問題出てて。今は糸井に任せてるが」
「SSでも……」
実乃莉は絶句していた。
深雪の兄で龍の友人が社長をする会社は協力関係にあるし、龍が独立前に関わった案件は今でもサポートしていると聞く。よりによってなぜ同じ時期にトラブルが起こるのか、不安でならなかった。
「そんな顔するなって。大丈夫だ。それより実乃莉。ちょっとこっち」
頭を優しく撫でたあと、龍は実乃莉の手を引き、奥にある自分のスペースに連れて行く。
明かりの付いていない一画には、龍専用のパソコンと長時間座っても疲れないという椅子が置かれている。龍は先に座ると、実乃莉の手首を掴んだ。
「実乃莉、座って?」
他に座るところなどないのに、実乃莉を見上げた龍は満面の笑みを浮かべている。
「えっと、どこに……?」
「ん? 俺の膝の上」
「⁈ ひゃっ!」
言うが早いか、龍は実乃莉の腕を引く。小さく悲鳴のような声を漏らすと、実乃莉はよろけるように龍の膝の上に横向きに乗った。そしてそのまま、たくましい腕の中に閉じ込められていた。
「すっげぇ落ち着く……」
頭の上から心底ホッとしたような龍の声がし、スリっと頬擦りされた気配を感じた。
(よっぽど……疲れてるんだ……)
「私、まだまだ元気です。だから龍さんにその元気を分け与えたいくらいです」
何の励ましにもならないけれど、少しでも癒されて欲しい。その広い胸に顔を埋めて実乃莉は言った。
フフッと笑う気配がして、一層龍の腕に力が入る。胸に押し付けられた耳にはドクドクと血が巡る音が届いていた。
「こうしてるだけでも元気になるよ。ありがとな、実乃莉」
「私だって。今、龍さんに癒されてますから」
こうしていると不安など吹き飛ぶ。そんなことを思いながら実乃莉は顔を上げた。
「じゃあ……俺も、もっと癒されたい」
囁くような笑い声。実乃莉の顔を覗き込む龍の吐息は頰を撫でる。目蓋を閉じると、唇にゆっくりと熱が伝わってきた。