絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる
 そう、彼女の言うとおりだ。
 誰に教わったわけでもないのに、フランチェスカは昔から『男性同士の感情のもつれ』が大好物だった。
 最初にペンをとりきちんと物語を書いたのは、大好きな児童文学の主人公をモデルにした、ライバルとのお話だったし(主人公には幼馴染の女の子がいたのだがそれは無視した)、それからも延々、男同士の物語を書き続けている。
 外見も性格も身分も違う男たちが、愛憎入り混じった強い感情をぶつけ合う物語は、男女の恋愛小説とはまったく違うトキメキと高揚感を、フランチェスカに与えてくれるのだ。

 ちなみにアンナ曰くフランチェスカが書いているのは『ブロマンス小説』というらしい。
 こんなことを考えるのは自分だけかと思っていたのだが、主な読者層は女性で、BBは彼女たちからカルト的な支持を受けている。BBは王都でも指折りの人気作家だった。

「まったくもう……アンナってあけすけなんだから」

 フランチェスカが呆れたようにため息をつくと、
「あらあら、そろそろ洗濯物を取り込まなくっちゃ!」
 アンナはわざとらしくそう言い放ち「失礼しま~す!」とそのままいそいそと姿を消してしまった。

「はぁ……」

 フランチェスカはため息をつき、見合い写真が挟まれた釣り書きをペラペラと適当にめくるが、まったく頭に入っていかない。
 格調高い詩集を出すことは百歩許したとしても、小説を書くことを許す夫はいないだろう。
 作家は男性だけに許された職業だ。結婚したら執筆を辞めなければならないのは間違いない。

(でもそれって、生きている意味はあるのかしら)
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