絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる

 十歳まで生きられないと言われた。
 それでも物語を心の支えにして十八まで生き抜いた。
 自分が希望を失わず生きてこられたのは、家族の愛情と本があったからだ。
 ベッドの中でどれほど高熱を出してうなされていても、咳のしすぎで肋骨が折れても、本を読み物語を書くことによってフランチェスカは生かされていた。
 なのに結婚という制度のせいで、フランチェスカの心は生きながら死んでしまうことになるのかもしれない。
 結婚なんか絶対にしたくない。心の自由を奪われたくない。
 だが一方で、結婚を拒み続けて、優しい兄や両親を困らせたくもない。
 がんじがらめのフランチェスカは、なにひとつ打開策を見出すことができず、立ち尽くすばかりだ。

(どうやったって、辛いわ……)

 フランチェスカは釣り書きをぱたんと閉じると、誰も見ていないのをいいことに、盛大なため息とともに、テーブルに突っ伏して目を閉じたのだった。



 だがそんなフランチェスカに転機が訪れる。
 ある日のこと、兄のジョエルがひどく畏まった様子で数年前の新聞を手に部屋を訪れた。
 ジョエルはフランチェスカとは十歳年が離れており、祖母譲りの美貌は国一番とまで言われている美男子である。父と共に領地運営に励みつつ、年の離れた妹のフランチェスカをとてもかわいがっていた。

「フランチェスカ、君の結婚相手だけれど、僕のかつての部下だった中将閣下はどうかな」
「え?」

 アンナに髪を梳いてもらいながら本を読んでいたフランチェスカは、本を閉じてジョエルから新聞を受け取った。
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