絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる
 新聞の一面には男性の横顔の写真がのっている。写真は映りがあまりよくないが、なんだか気難しそうな男だというのは伝わってきた。

 新聞の記事にざっと目を通すと、
『シドニア領の領主である中将は人嫌いで、八年前に叙勲されてから未だに王都に一度も顔を出さない』
『貴族社会において彼の傲慢たる態度はいかがなものか』
『とはいえ彼が改心する日は来なさそうである』
 というようなことが、つらつらと書いてあった。

(まぁ、なんて余計なお世話な記事かしら!)

 フランチェスカは思わず唇を尖らせていた。
 確かに名だたる貴族たちは基本的に一年の大半を王都のタウンハウスで暮らし、領地にはたまに戻る程度だが、逆に領主が領地にいてなんの問題があるというのだろう。
 領民からしたら、領主が同じ土地で生活をしてくれているほうが、ずっと安心した日々が送れるのではないだろうか。

「マティアス・ド・シドニア中将閣下だ。君も名前くらい覚えているだろう?」

 いそいそとフランチェスカの前のテーブルに腰を下ろしたジョエルは、フランチェスカとよく似た青い瞳をキラキラと輝かせる。
 幼いころから病弱で、社交界にはまったく縁のないフランチェスカだが、兄の口から出た名前を聞いてハッとした。

「もしかして……八年前の戦争でお兄様を救出した、あのマティアス様?」

 八年前、アルテリア王国は帝国からの要請により同盟国の一翼として戦争に参加した。当時士官学校を卒業したばかりのジョエルも、青年士官として従軍していたのである。

「そうっ! そのマティアス殿だ!」

 妹がすぐに思い出したことが嬉しかったのか、ジョエルはパッと笑顔になってフランチェスカにぐいっと顔を近づけてきた。
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