絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる
「自分の気持ちを自覚してからは、そばにいられるだけでいいって思っていたはずなのに、気が付いたらマティアス様にも私を好きになってほしいって思い始めてて……。思っていた反応と違うからって、子供みたいに駄々をこねて……。はぁ~……欲深い自分が心底いやになるわ……」

 頭を抱えてため息をつくフランチェスカを見て、アンナはクスッと笑ってオイルマッサージを始める。

「誰かを好きになって、その相手にも自分を好きになってほしいと思うのは、自然なことじゃないですか?」
「――アンナもそんな気持ちになったことがあるの?」

 アンナはフランチェスカが十歳の時にヴェルベック家に雇われ、それから八年の付き合いだ。だが恋人がいるというような話は聞いたことがない。

「ご存じでしょう。あたしの恋人はこれですよ」

 アンナは親指と人差し指の先を合わせて、指で円をつくる。

「お金?」
「そうですよ。ふふっ……」

 アンナはクスッと笑いながら、にんまりと笑う。

「そりゃあ、お屋敷に出入りしている業者の殿方から、時折お誘いは受けることはありましたよ。周囲に言われて、たまにデートとかしたりしてしました。でも殿方といても楽しくないなーって思うんですよね。その時間働きたいって思っちゃう。あたしは男よりも圧倒的に欲しいものがあるんです」

 アンナはきっぱりとそう言い切った。
 恋愛だけが人生ではない。確かにそれはそうだ。フランチェスカだってそう思っていた。
 マティアスに出会わなければ、夫になった人が彼でなければ、フランチェスカはきっと恋には落ちていなかっただろう。
 そこでアンナはさらに言葉を続ける。

「でも、お嬢様が拗ねたくなる気分はわかりますよ。寂しかったんですよね?」
「……ええ」

 フランチェスカはこくりとうなずいた。

「女官の件は……マティアス様にほんの少しでも『それは困る』って言って欲しかっただけよ」

 はっきりそう断言すると、胸のつかえがとれる気がした。
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