絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる
「うっ……」
そう言われるとマティアスも辛い。
「すまなかった。お前を見くびっていたわけではないんだ」
とっさに胸のあたりを手のひらで押さえると、ダニエルはふふっと笑って、首を振った。
「冗談ですよ。なにもすべてを明らかにすることが信頼の証、というわけではありませんからね。言いたくないことは言わなくてもいいんです。ただ……隠していることで誤解を招くようなこともあるので、その点は気を付けていただきたいとは思いましたが」
ダニエルはそう言って、ガラスのキャビネットの前に立ち中を見おろした。
「そういえば、フランチェスカ様のお部屋に人形を落とされませんでしたか?」
「はっ!?」
まさかの発言にどういうことだと詳しく聞いてみれば、どうやら失くしたと思った白猫ちゃん人形はフランチェスカの部屋に落としていたらしい。
「マジかよ……」
頭を抱えてうなだれるマティアスを見て、ダニエルが
「この機会に正直にお話になってはいかがですか?」
と当たり前のように告げる。
「それは嫌だ。軽蔑されるに決まっている」
「そんな恰好をおつけにならなくてもいいのでは」
「つけるに決まっているだろう!」
思わず本気で言い返していた。
するとダニエルが、やっぱりという顔で
「奥様のこと、お好きになってしまわれたんですね」
と眼鏡の奥の瞳を細める。
「っ……」
好きだと指摘されて、マティアスは唇を引き結んだ。
否定するための言葉を探し、結局諦める。
「……そうだな。彼女に、みっともないところを見せたくないんだ」
「みっともなくはないですし、素直になったほうが楽だとは思いますが、同じ男として旦那様の気持ちはわかります」
ダニエルは軽く肩をすくめ、それからこほんと喉を鳴らして声を潜めた。
「でもまぁとりあえず、その気になってくださったのなら、奥様とは本当の夫婦になっていただかないと」
「――は?」
本当の夫婦という発言に顔をあげると、ダニエルはニヤッと悪そうに微笑んだ。
「隠せていると思っているのは、旦那様と奥様だけです。おふたりの間になにもないことは皆うっすら気づいていますよ」