絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる
 するとダニエルはあからさまにムッとして、胸元から一枚の紙を取り出しドアの隙間から見せつけるように広げる。

「ではこの請求書はなんですか?」
「ん?」

 顔を近づけると、請求書には裁縫道具一式とドレス生地と記載がある。王都で購入した時のものだ。

「あ……いや、それは」

 喉がひゅっと音を立てて締まる。
 その態度を見てダニエルは確信したらしい。

「この部屋に女性を囲われているんでしょう。だったら家令の私に早い段階で教えていただきたかったです。そうしたらもう少しきちんと根回しいたしましたのに」

 深々とため息をつき、それから眼鏡をくいっと中指で押し上げる。

「――開けてください」

 そこでようやくマティアスは自分がどう誤解をされているか、すべてを理解した。

「待ってくれ、ダニエル、それは違う。それは俺が使うために購入したものだ」

 強く押し返していたドアから体を離した。

「は?」

 一生バレずに墓場まで持っていくつもりだったが仕方ない。

「わかった、部屋に入れ。笑ったら殴る」

 マティアスは大きく深呼吸して、ドアを開け放った。
 それからのダニエルの理解は早かった。部屋の中をぐるりと見回した後、人が住んでいる気配がまるでないことも察知し、即座にここが昔からマティアスの趣味の部屋であることに納得したようだ。

「なるほど……」
「――笑わないのか」
「まぁ驚きはしましたけど、犯罪行為を犯しているわけでなし。ただの趣味ではないですか。長く戦場に出ておられる軍人は心を壊しやすい。人としてバランスをとるために、愛らしい人形を眺めて心を休めるのは、理にかなっていると思いますよ」

 ダニエルはさらっとした表情で眼鏡を押し上げつつ、マティアスを見て肩をすくめた。実に彼らしい返事だが、軽蔑されないとわかった時点でかなりほっとした。

「むしろ私がこれを見て笑ったり、馬鹿にしたりする側の人間だと思われていたことの方が、よっぽどショックです」
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