絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる
マティアスは言葉を失ったが、よくよく考えてみればマティアスは相変わらず仕事ひとすじで屋敷はあけがちだし、フランチェスカは『シドニア花祭り』の準備で忙しくしている。夜だってほぼ朝までふたりで過ごした様子もないので、普段ふたりの世話をしている使用人には、気づかれるのは当然だろう。
それでも何も言わずに黙っていてくれたのは、彼らの気遣いだったのだろう。
マティアスは唇を震わせながら、うめくようにつぶやく。
「――彼女のためになると思ったんだ」
そう、恐ろしいことに自分は『正しいこと』をしているつもりだったのである。
「なるほど。フランチェスカ様の『自分を認めていただきたい』という焦りは、要するに旦那様のせいというわけですね」
「グッ……」
ダニエルの言うことは全て正しく、マティアスはなにひとつ言い返せそうになかった。
「マティアス様らしい優しさですが……本当はどうするべきか、お分かりですね」
ダニエルは眼鏡をクイッと押し上げ、表情を引き締める。
「――ああ、そうだな」
マティアスははっきりとうなずいた。
身分が違いすぎるとか、生まれ育った環境が違うだとか、己と一緒になっては彼女がかわいそうだとか、なんだかんだと理由をつけて逃げ回っていたが、もうやめだ。
「彼女に……自分の思いを告げよう」
マティアスの返答を聞いたダニエルは、ふっと満足げに眼鏡の奥の瞳を和らげて、微笑んだのだった。