絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる
「フランチェスカは賢い子だから、どこに行ってもそれなりにうまくやっていくとは思っているんだけど……兄としてはたったひとりの妹には、よい伴侶を得てほしい」
そして手を伸ばしてフランチェスカの手を握った。
あたたかい手のぬくもりからは、兄が真摯にフランチェスカを思ってくれていることが伝わってきて――フランチェスカは唐突に、天啓のようなものを感じた。
「そうね……私、マティアス様と結婚しようと思うわ」
自分から口に出しておいてなんだが、音に乗せた瞬間、しっくり来た。
曖昧な靄がかかっていた視界が、きれいに晴れていく。
どうやっても結婚が避けられないというのなら、兄の命の恩人というのは悪くない選択ではないか。少なくとも貴族の地位に胡坐をかいて、なんだか偉そうだったり、女遊びにしか興味がない男より絶対にマシである。
その瞬間、カップに紅茶のお代わりを注いでいたアンナが驚いたように「お嬢様、本気ですかっ!?」と声をあげる。
それもそうだろう。家族の命の恩人だとしても、貴族たちから疎まれている男性にわざわざ嫁ごうという酔狂な貴族の娘はいない。
「しっ……失礼しました」
兄妹の視線を受けて、アンナは慌てたように口元を抑えて頭を下げたが、フランチェスカは「いいのよ」とうなずき言葉を続けた。
「だって、お兄様がこの人だって言ってくださったんだもの。どうせ結婚しなくちゃいけないのなら、信頼できる人のお墨付きのほうが安心できるわ」
資産や容姿、王国内の貴族としての立ち位置も大事かもしれないが、そもそも社交界からほど遠いところで生きてきたフランチェスカには、それらはなにひとつ重要なことではない。
フランチェスカが愛するのは物語だ。
欲しいのはそれを紡ぎ続けられる自由である。