絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる
「ちなみに今更だけど、マティアス様は一度もご結婚されていないの?」
新聞の写真は荒いものだが、三十代なのは間違いないだろう。普通なら結婚して子供のひとりやふたりいてもおかしくない年齢だ。
(それならそれで、私が子どもを産む必要がなくなるから気が楽なんだけど)
嫁いだ妻の責務は、爵位と領地を守る跡継ぎを産むことである。だがマティアスに子供がいるのなら、その必要がなくなる。
「平民だった頃からおひとりだったけど、貴族軍人になってからも相変わらず独身を貫かれているようだよ」
「そうなの……」
仮に王都の貴族に疎まれているとしても出世をしているのは間違いないのだから、爵位目当ての商家や軍人派閥から、結婚の話は出ていてもおかしくないのだが。
「どうして結婚なさらなかったのかしら?」
もしかしてとても世間には言えないような、あぶない性癖をお持ちなのだろうか。
そう思うと、怖いと思うよりも先に物書きの好奇心がムクムクと膨らんでくる。
「理由はわからないけれど、だからってマティアス殿の人格に問題があるとは思えないよ」
「――そうね」
上官の命令を無視し命がけで兄を助けてくれたのに、爵位も領地もいらぬと固辞した人だ。悪い人ではないように思う。
(そうだわ……考えてもみたら、八年も王都に顔を出さないポリシーをお持ちなら、妻の私も引きこもっていられるじゃない!)
シドニア領は王都からかなり離れている。貴族間の付き合いも薄そうだし、畏まった場所となれば貴族は夫婦同伴が前提になる。今更自分だけに社交界に顔を出せ、ということもないだろう。
貴族の妻の煩わしい人付き合いをやらなくていいというのは、フランチェスカの中でメリットでしかない。
それこそ執筆活動だって続けられるのではないだろうか。
その事実に気づいたフランチェスカの胸から、胸のつかえがとれた気がした。
意外なところから自分の進むべき道が見えて視界がパッと明るくなる。
「お兄様、私、マティアス様と結婚します。ぜひお話をすすめてくださいっ!」