絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる
とりあえず消火活動が終わったのかもしれない。
避難してきた人たちから話を聞いた限りでは、火事が起こったのは公舎ではなく、その近くの広場が出火元ではないか、ということだった。彼の部下たちが率先して避難誘導や消火活動を行っていて、今のところ逃げ遅れた人はいないらしい。
だが相変わらずマティアスも、ダニエルも戻ってこない。
最悪の結末が頭をよぎるが、すぐにそれは否定した。
マティアスが死んだりするはずがない。あの人は八年前にだって、兄を助け死地を乗り越えたのだから。
(大丈夫……絶対に大丈夫……絶対に大丈夫よ。この屋敷に戻ってくるわ)
必死に自分に言い聞かせていると、
「――お嬢様」
同じくくたびれた様子のアンナが、フランチェスカの手を取り指を解きほどいた。どうやら緊張のあまり握りしめていたらしい。手のひらが爪の形に赤く染まっていた。
「考えないようにしていたの。怖くて」
面白くもないのに笑ってしまう。フランチェスカは深呼吸をしてから周囲を見回した。
「少し落ち着いたかしら」
「ええ、そうですね」
「だったら次は台所を手伝おうかしら。炊き出しが必要よね。とりあえずあたたかいスープでも……」
少し疲れたが、そんなことは言っていられない。困っている人はたくさんいるのだ。
目をこすりながらアンナと話していると、
「フ……チェ、スカ!」
開け放った屋敷の扉の向こうから、艶のある低音が響いた。
その瞬間、フランチェスカの体を貫くように稲妻が走る。
頭は依然真っ白だったが、フランチェスカはなにも考えず、立ち上がり声がした方へと転びそうになりながら走り出していた。
(うそ、嘘!)
足が震える。
膝が笑う。
(違う、嘘じゃない!)
彼の声を聞き逃すはずがない。
燃えるような赤い髪、そして大地に根付く大樹のような立ち姿が目に飛び込んできて――。
「マティアス様っ!」
フランチェスカは必死に前に手を伸ばしていた。
避難してきた人たちから話を聞いた限りでは、火事が起こったのは公舎ではなく、その近くの広場が出火元ではないか、ということだった。彼の部下たちが率先して避難誘導や消火活動を行っていて、今のところ逃げ遅れた人はいないらしい。
だが相変わらずマティアスも、ダニエルも戻ってこない。
最悪の結末が頭をよぎるが、すぐにそれは否定した。
マティアスが死んだりするはずがない。あの人は八年前にだって、兄を助け死地を乗り越えたのだから。
(大丈夫……絶対に大丈夫……絶対に大丈夫よ。この屋敷に戻ってくるわ)
必死に自分に言い聞かせていると、
「――お嬢様」
同じくくたびれた様子のアンナが、フランチェスカの手を取り指を解きほどいた。どうやら緊張のあまり握りしめていたらしい。手のひらが爪の形に赤く染まっていた。
「考えないようにしていたの。怖くて」
面白くもないのに笑ってしまう。フランチェスカは深呼吸をしてから周囲を見回した。
「少し落ち着いたかしら」
「ええ、そうですね」
「だったら次は台所を手伝おうかしら。炊き出しが必要よね。とりあえずあたたかいスープでも……」
少し疲れたが、そんなことは言っていられない。困っている人はたくさんいるのだ。
目をこすりながらアンナと話していると、
「フ……チェ、スカ!」
開け放った屋敷の扉の向こうから、艶のある低音が響いた。
その瞬間、フランチェスカの体を貫くように稲妻が走る。
頭は依然真っ白だったが、フランチェスカはなにも考えず、立ち上がり声がした方へと転びそうになりながら走り出していた。
(うそ、嘘!)
足が震える。
膝が笑う。
(違う、嘘じゃない!)
彼の声を聞き逃すはずがない。
燃えるような赤い髪、そして大地に根付く大樹のような立ち姿が目に飛び込んできて――。
「マティアス様っ!」
フランチェスカは必死に前に手を伸ばしていた。