絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる
執務室にはルイスとダニエルが残っている。
ダニエルがお茶のお代わりをカップに注ぐ横で、ルイスが神妙な顔をして口を開いた。
「――調べた結果、出火元はテントの裏の資材置き場でした。テント然り、出店は全て木造だったのであっという間に燃え広がったようです。幸い住宅にまで被害が広がらなかったこと、貯水槽として設置していた中央広場の噴水のおかげで、被害が広がらなかったことはよかったんですが……」
言いにくそうに口ごもるルイスの反応を見て、フランチェスカはまさかと思いつつも問いかける。
「資材置き場から火が出たって……。そ、それって、放火ってことですか?」
フランチェスカの疑問を拾い上げるように、マティアスは頬杖をついたまま、顎のあたりを指で覆った。
「十中八九放火だろうな。ルイス、調べられるか」
「はい。口の堅い奴を選んでこっそりやります。放火の可能性なんか聞いたら、街のやつらが怖がっちまいますからね」
ルイスはうなずくと、いつもはヘラヘラしている表情を引き締めて立ち上がり、ダニエルと一緒に執務室を出て行った。
(嘘……放火だなんて信じられない!)
幸いにも死人は出なかったが、それは奇跡的なことだったのだ。それが誰かの悪意で行われたことだと思うと、恐怖で眩暈がする。
(もしかしたら、この悪意はまだ続くかもしれないってこと……?)
フランチェスカは紅茶の表面に映る自分の顔を見おろしながら、唇を引き結ぶ。
「――フランチェスカ」
名前を呼ばれて顔をあげると、やんわりと微笑んでいるマティアスと目が合う。
急に静かになった執務室だが、彼に名前を呼ばれて、廊下や窓の外から子供たちが遊んでいる声が聞こえてくるのに気が付いた。
公舎は現在仮の避難所にもなっていて、子供の声がするのはそのせいだが、思わぬ火災で全員がそれなりにショックを受けている今、子供の元気な姿は、かえって皆の気持ちを明るくするようだった。
「それでいつ、王都に?」
放火の可能性にフランチェスカは凍り付いてしまっていたのに、彼はいたって静かだった。