絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる
 マティアスが落ち着いているのがわかると、不思議とフランチェスカの不安も少しだけ小さくなる。

(そうよね、怖がっても仕方ない。マティアス様ならきっと解決されるし対策も練るはず。不安を煽るのはよくないわ)

 彼のおかげで気持ちが落ち着いた。

「今日の午後……兄が迎えに来てくれるので列車で向かいます」

 三日後には皇女を迎えての晩さん会がある。そこでフランチェスカは皇女と顔合わせをすることになっている。シドニア領で火事があったことはおそらく耳に入っているだろうが、だからといって約束を破るわけにはいかない。

(きっとマティアス様は、私がもう戻ってこないって思ってる……)

 胸がズキズキと苦しくなったが、これはフランチェスカが自分の意志で選んだことだ。傷つくなど本来勝手な話なのである。

「もしかしたら、私なんか早々に首になるかもしれませんけど」

 余り深刻な雰囲気にしたくなくて、フランチェスカはおどけたように肩をすくめた。
 だがマティアスはそれを聞いて真面目な顔で首を振った。

「そんなはずはない。あなたならきっと、皇女殿下のお眼鏡にかないます」

 不思議とお世辞とは感じなかった。
 そう――マティアスは自分の言葉に責任を持ってくれる人だ。

(やっぱり、好きだわ)

 諦めなければと自分に言い聞かせても、気持ちが抑えられない。
 フランチェスカは顔を挙げてマティアスを見つめた。

「あの……マティアス様。私、王都で皇女様にお会いした後、帰ってきますから。その時にお話がしたいです」
「え?」

 ハッキリと口にした瞬間、マティアスがかすかに息をのんだ。

(好きだなんて言えば困らせるのはわかってる。でも感謝の気持ちは伝えたい)

 作家でい続けたいばかりに、貴族の妻などいらないと拒否していたマティアスに無理やり押しかけ妻になった。

 彼の優しさに触れて好きになって、本当の妻になりたいと、認められたくて奮闘した。
 小説を書くことだけが生きる喜びだった自分が、こんなふうに誰かを愛せるようになるなんて、思わなかった。
 確かに恋は実らなかったけれど、すべての経験がフランチェスカにとって宝物には違いない。
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