絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる
そしてわずか一か月後――。フランチェスカは持参金と花嫁道具を携えて、シドニア領へと向かう馬車の中にいた。
汽車で移動という手もあったのだが、警備上の理由で馬車になった。フランチェスカは王都から出たことがなかったので、人生初の長旅だ。
窓の外にはちらちらと雪が降っている。王都はもう春の気配が漂っているが、シドニア領地はアルテリア王国の北にあり王都よりずっと寒い。聞くところによると一年の三分の一が冬らしい。
「お嬢様。中将閣下からは『結婚はお受けできない』って返事が来たんですよね?」
アンナが眉のあたりにきゅっと皺を寄せてささやく。
「ええ。でもマティアス様は断れる立場ではないから。私はそれを無視してこうやって押しかけているの」
フランチェスカはお尻の下に新しいクッションをねじ込みながら、こくりとうなずいた。
兄から両親へ、そして王家へ。マティアス・ド・シドニア閣下への嫁入りは、フランチェスカの強い希望であっという間にまとまってしまった。
両親は、愛する娘が評判がよろしくない男のもとに嫁ぐことに、感じるものがなかったわけではないらしいが、最終的に「お前たちがそこまで言うなら」と、フランチェスカの気持ちとジョエルの意見を受け入れてくれた。
一方、侯爵家から結婚を打診されたマティアスはかなり驚いたようで、手紙で何度も『身分が釣り合わない』『侯爵令嬢をお招きできるような状況ではない』と丁寧な返事が届いていたのだが、それは『謙遜』と受け止めて話を進めた。
強引なのは百も承知だが、これも己の自由を守るためである。
「本当にご遠慮いただきたいと言うのが、シドニア伯の本心なのでしょうけど……」
フランチェスカは馬車の窓から外を眺めながら、ため息をつく。