絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる
 たっぷりのパニエにふんだんに取り入れたレースとフリル。前開きのローブ・ヴォラントは淡い薔薇色で銀糸の刺繍が全体に施され、キラキラと輝いている。波打つ金色の髪は丁寧にブラッシングした後ふんわりとしたポンパドールを作るだけで、あとは後ろになびかせた。余分なアクセサリーは一切身に着けてない。
 本来なら侯爵家の家宝であるブルーサファイヤのネックレスを着けるべきだが「皇女殿下はあまり派手好きではないらしい」というジョエルの助言で、それはやめた。

 母であるエミリアはひどく残念がっていたがフランチェスカも同意見だ。
 なにしろ社交界デビューをこなしていない、貴族の娘としてあり得ない生活を送ってきたフランチェスカである。

(家宝なんか身に着けても、うっかり落としてしまいそうだし)

 宝石の価値を正しく理解していない自分が身に着けるのは、やはり気が引けたのだった。

「我が妹ながら本当に美しいね。大丈夫、胸を張っていなさい」

 ジョエルが金色のまつ毛を瞬かせながらにっこりと微笑む。

「ありがとう、お兄様。馬子にも衣裳だけれどがんばるわ」

 フランチェスカは周囲の自分に向けられる視線に緊張しつつも、王城のエントランスから螺旋階段を一歩ずつ上っていく。

(大丈夫、今日の私はそこそこイケているはずよ……!)

 ちなみに今日の宮中晩さん会は両親は参加せず、兄のジョエルと妹のフランチェスカのふたりでの参加だ。両親は皇女が正式に王太子妃になってからご挨拶する予定らしい。
 フランチェスカも、本来なら夫であるマティアスと夫婦として参加するべきなのだが、カールが送ってきた招待状にはフランチェスカの名前しか記載されていなかったので、兄のジョエルをパートナーとしたのだった。

「わぁ……」

 フランチェスカは初めて見る王城の景色に、目を奪われ声をあげる。

 晩さん会の会場は『鏡の間』と呼ばれる美しい大広間だった。
 色とりどりの花に彩られた広間を横断するように置かれた長テーブルには、すでに銀色のカトラリーがずらりと並べられ、天井から吊るされたシャンデリアの輝きを虹色に反射していた。
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