絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる
(そうよ、私は一応人妻なんだから。頭に血を上らせてはだめ……!)

 冷静に、冷静に……。
 必死に自分に言い聞かせて冷静さを保つ。
 それからしばらくして晩さん会が始まる時間になったが、いつまで経っても皇女と王太子は姿を見せなかった。
 どうしたのだろうと皆が出入口のドアを見ているが、変化はない。

「お支度に時間がかかっているんでしょう」

 カールの母親の公爵夫人が口を開く。

「聞いた話によると、皇女が嫁ぐときは帝国一の騎士にエスコートしてもらう伝統があるんですって。心技体、全てに優れた騎士にその栄誉が与えられるんだとか」

 それを聞いたカールが「へぇ」と相槌を打つ。

「帝国一番の騎士にお会いできるなんて、楽しみだな」

 そこでカールはふと思いついたように、フランチェスカに下品な眼差しを向ける。

「そういえばお前の夫は、領内で火事を起こしたらしいじゃないか。平民ごときの人気取りのために、祭りなんてのんきなことを考えるから、そんなことになったんだ。そうだ、いっそ野良犬から帝国の騎士様に乗り換えたらどうだ? どうせ『乗る』ならそっちのほうが具合がいいだろう?」

 カールがその目に侮蔑の色をのせ、軽く腰をゆする。
 それは明らかに性的な隠語で――。
 プチン。

(もう無理)

 フランチェスカの頭の中で何かが切れる音がした。

「人を馬鹿にするのもいい加減にして!」

 叫びながら目の前にあるフィンガーボウルをつかみ、カールに向かって中身を思いきりぶちまける。勢いあまってテーブルの上のグラスも音を立てて倒れたが、フランチェスカはsおのまま椅子から立ち上がり、カールをにらみつけた。
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