絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる
 ジョエルの言うことは至極もっともに聞こえたが、カールはその言葉を聞いて白けたと言わんばかりに鼻に皺を寄せる。

「ジョエル、相変わらず真面目でお堅いな」

 だが一理あると判断したらしい。フランチェスカたちとともに長テーブルに着席した。
 カールは公爵夫人の正面に座り、ジョエルはフランチェスカの前に座った。カールは機嫌よく着席した後、フランチェスカに向かって満足げに微笑みかけてくる。

「お前がバカな選択をしない従妹でよかったよ。僕が恥をかくところだった」
「……」

 別にカールのためではないと思いつつも曖昧にうなずく。

「あのケダモノ中将のことは、僕に任せなさい。きれいに別れさせてやるからな」
『ケダモノ中将』と聞いて、フランチェスカの眉がピクリと動いた。正面に座っているジョエルも然りである。

(落ち着いて、私。こんなことで怒ってはだめよ)

 フランチェスカはゆっくりと深呼吸するように息を吐いて、ニッコリと従兄に微笑みかけた。

「カール、そんなことを言わないでちょうだい」

 確かに『シドニア花祭り』が終わったら、マティアスとは離縁するつもりでいる。
 だがそれは彼を愛するがゆえだ。マティアスを愛しているから身を引かねばならないと気が付いた。間違っても別れたくて別れるわけではない。

「マティアス殿は妹の夫で僕の命の恩人なんだ。君にとっても身内なんだぞ」

 さらにジョエルもたしなめるように声をかけてくれたが、それでもカールは意地悪く唇の端を持ち上げて意見を引っ込めなかった。

「冗談だろう。僕は平民出身のあの男を身内だなんて絶対に認めないね」
「ええ、カールの言うとおりです」

 隣に座っていた公爵夫人も、息子の発言に便乗するよう強くうなずく。

「いいこと、フランチェスカ。『荒野の野良犬』とは速やかに離縁なさい。皇女に気に入られれば帝国貴族との結婚が可能になるわ。野良犬と千年の歴史を誇る帝国貴族……どっちに利があるか、世間知らずなあなたでもわかるでしょう?」
「――」

 正面に座っていたジョエルが『こらえろ』という表情になったので、奥歯を噛みしめることでなんとか飲み込んだ。
 兄の顔を見ていなかったら、目の前のフィンガーボールの水をぶっかけていたかもしれない。

(別人格だってわかってるけど、この親ありきでこの息子が育ったのよね)

 フランチェスカは膝の上で拳を握りつつ、マティアスのことを考える。
 レディとして恥ずかしい振る舞いをすれば、この親子と同じレベルにまで落ちることになる。それはマティアスを貶めることに繋がるかもしれない。
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