絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる

 彼が王女の孫である侯爵令嬢との結婚に利益を感じるような男なら、そもそも八年も領地に引きこもってはいない。お金にも名誉にもまったく興味がない男なのだ。
 マティアスにとって、フランチェスカはやっかいな貴族の娘でしかないだろう。

「なんとか追い返されないようにしないとね」

 しみじみと口にすると、アンナがニコッと笑顔になった。

「大丈夫ですって。お嬢様を見て、気に入らない男なんていませんよ。もんのすごい美少女なんですから」

 グッ! と親指を立てるアンナに、フランチェスカ笑って肩をすくめる。

「なによ、それ……」

 確かにフランチェスカは、国一番の美男子と評判の兄とよく似ている。だが自分の顔を鏡でいつも見ているわけでもなし、社交の場にでることもないので自分の容姿が他人の目にどう映るかは興味がなかった。

「中将様が私を見た目で気に入るなんて、楽観的すぎるわ。私みたいなやせっぽちの娘よりも、出ているところがば~んと出ている大人の女性しか、相手にしなさそうじゃない?」

 あくまでも妄想――脳内での話だが、フランチェスカが軍人のヒーローを物語に出演させるときは、『男らしい男』として執筆する。
 質実剛健、軍人としての責務を一番とし、家庭があったとしてもそれは出世のためで、女を愛したりはしない。娼館にも通うが馴染みの女性は作らない。好みのタイプは肉感的でセクシーな美女であって、惚れられはするが惚れはしない。

(マティアス様も、そういうタイプなんじゃないかしら?)

 新聞に掲載されていた彼の横顔を思い出す。
 少し癖のある赤い髪に意志の強そうなまっすぐで凛々しい眉。すっと通った鼻筋に意志の強そうな唇。首も太く、いかにも軍人というような風貌だった。
 貴族の間では、兄のジョエルのように絵画から抜け出した天使のような男が圧倒的に受けるが、人の好みというはそう単純なものではないとフランチェスカは知っている。むしろフランチェスカは自分にない生命力――のようなものを持つ人を、純粋に好ましいと思っていた。
 兄を担いで敵国から逃げてきたという中将に対して、悪い印象はなにひとつない。
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