絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる
 そして彼女はドレスの裾をつまみ、
「シドニア伯。あなたにはこれからもアルテリア貴族の見本となってくださいませ」
 と、マティアスに向かって優雅に膝を折ったのだった。

 皇女マリカの堂々たる告白に、貴族たちは痺れたように言葉を失い、その場に立ち尽くしていた。

 八年間、自分達がバカにし続けてきた男が、この国にどれほどの利益を与えたのか。
 そしてたった今、マティアスがこの国で最も賞賛に値する人物だということに、ようやく全員が気づいたのだ。
 そしてレオンハルトがよく通る声で宣言する。

「皆の者、よく聞いたか! かのシドニア伯こそ国一番の忠義の者よ!」
「っ……シドニア伯、万歳! アルテリア王国、万歳!」

 王太子の声に賛同するように、ジョエルがその場の誰よりも早く声を挙げ、拍手をした。
 それに釣られるように他の貴族たちも我先にと手を叩き始める。

「レオンハルト殿下、マリカ殿下、万歳!」
「両国の未来に幸いあれ!」

『鏡の間』で響く百人の貴族たちの割れんばかりの歓声と拍手で、耳が痛くなる。
 びしょぬれのカールも公爵夫人も、顔を強張らせつつも拍手をしていた。

『これまで見下していたくせに、もう遅いですっ!』と言いたいくらいだが、マティアスの名誉がこれで回復するなら、文句は言うまい。

(これで私の無礼もみんな忘れて、帳消しになったかしら……)

 万雷の拍手の中、フランチェスカはおそるおそる顔をあげ、夫である男の顔を見上げた。

「あの……マティアス様」
「――ん?」

 鳴り響く拍手で声が届かないのだろう。マティアスがかすかに眉をひそめ、長身を折り曲げるようにして身をかがめる。
 はらりと赤い髪が額に落ちて緑の瞳が、シャンデリアの光を反射して星のように瞬く。
 フランチェスカは、夫の美しい瞳を見ながら、そう言えば愛の言葉に返事をしていないことに気が付いた。

「私……たくさん、話したいことがあるんです」
「奇遇だな。俺もだ。その、中には嫌われないといいんだがと思うようなこともある」

 マティアスが少し困ったように眉根を下げる。

「嫌うなんて、あり得ません。だって私は……私は」

 彼の首の後ろに手を伸ばし、そのままグイッと頭を引き寄せた。
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