絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる

「でもこれで、お嬢様も作家を辞めなくて済みますね。王都からこんなに離れてるんですから、これまでどおり執筆し放題ですよっ。あたしもお嬢様をサポートしますからねっ」

 アンナが浮かれた様子で、目の前でグッと力強く拳を握った。

「もしかしてあなたが私に着いてくるのは、原稿のためなの?」
「お嬢様の原稿を王都に持って行けば、そのたびに出版社が特別手当を出してくれるって言うんでっ」

 アンナはキリッとした表情でうなずいた。
 現金なものだが、悪い気はしない。
 フランチェスカの侍女であるアンナは昔からお金が大好きだ。兄と弟妹が五人もいる環境で育ったせいか、働く前からずっと『自分一人の家』が欲しかったらしい。
 結婚願望もなく、とにかく働いて資産を増やし、老後は自分のための家を買い悠々自適に暮らすのが人生の目標なのだと言う。
 給金が倍になると聞いて、自ら『お嬢様についていきます!』と鼻息荒く立候補してシドニア領に着いてきてくれた。お金目当てでも、フランチェスカとしては気心の知れたアンナが付いて来てくれるのはありがたい話だし、フランチェスカはこういうアンナのことが大好きなのだ。

「とりあえずマティアス様が私を追い返しさえしなければ、きっとうまくいくって信じましょう」

 形ばかりの妻でいい。いつか死ぬものとして十八になるまで箱入りで育てられた自分が、当たり前のように妻になれるとも思えない。
 両親や兄夫婦のように、夫婦かな睦まじくというのに憧れはするが、多くを望んでは罰が当たるだろう。

 ただひとつ、フランチェスカの願いはこれまで通り物語を紡ぐ、そのことだけだ。
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