絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる
「ところで中将閣下は、愛人をお持ちになってないんですかね?」
アンナがふと思い出したように尋ねる。
「三十五歳の男性なのだから、いてもおかしくはないわよね」
フランチェスカもまた、軽く頬に指をあて、首をかしげながらうなずいた。
『愛人は貴族のたしなみ』とも言われているが両親は恋愛結婚で、兄もそんな両親に育てられたせいか、妻子をとても大事にする男だった。
だが自分の家族がそうだから他人もこうであるべき、と意見を押し付ける狭量なフランチェスカではない。人の気持ちはどうにもならないものだし、そもそもフランチェスカは侯爵令嬢としての圧力を利用して、嫌がるマティアスを押し切って嫁ぐのだ。
彼に愛人がいたとしても、邪魔するつもりは微塵もなかった。
「マティアス様に愛人がいらっしゃったとしても、領主の妻として受け入れるわ。決していらぬ悋気なんて起こさないことを神に誓います」
あっさりとそう口にするフランチェスカに、アンナはなぜか呆れたように苦笑する。
「そんなこと言って、もしお嬢様が恋をしたらどうするんですか?」
「えっ、私が?」
恋をしたら、という耳慣れない言葉を聞いて、驚きのあまり目をぱちくりさせてしまった。
「そうですよぅ。お嬢様だって花の十八歳。中将閣下のことを好きになるかもしれないじゃないですか」
「全然ぴんとこないわ。物語を書くこと以上に楽しいことって、此の世にないし」
ゆるゆると首を振り、フランチェスカは窓の外を眺めぼんやりと考える。