絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる

 シドニア領主の屋敷は、想像よりずっと洗練されていた。
 王都では野蛮なケダモノのように言われていたが、屋敷内は非常にシックで落ち着いたたたずまいをしている。
 若草色の絨毯に、薄いすみれ色の小花柄の壁紙。マスタード色のカーテンはドレープが美しく見えるように寄せられている。部屋の隅に置いてある書き物机やガラスの花瓶にはほこりひとつ浮いていない。窓の外から見える中庭では、庭師がよく手入れをしていて、冬にもかかわらずフランチェスカが見たこともない緑の花が美しく咲き誇っていた。
 あれはこの土地に来る途中に見た、不思議な低木だ。
 フランチェスカはなんでも王都が一番で、王都にないものはないと思っていた。
 だが本当は違う。辺境とも言われていたこの土地にも、ここでしか見られないものがきっとたくさんあるのだろう。

「急に押しかけてきたのに、使っていない部屋がとても清潔に保たれていた。食事だって素朴だったけどとても丁寧な仕事だったわ」

 大麦のミルク粥に林檎、野菜が柔らかく煮込まれた温かいスープと絞りたてのフレッシュジュース。体調を気遣って比較的消化のいいものを作ってくれたのだろう。出されたメニューはどれも食べやすいものばかりだった。

「確かに……洗濯物にはいつもぴしっとアイロンがかかってますしね。暖炉も煤ひとつついていませんよ」

 アンナがうんうんとうなずく。
 家令はその家の資産管理や使用人を束ねる事務方のトップだ。屋敷がうまく運営されているのは、ダニエルが非常に優秀な男という証拠になる。

「家令が十分自分の力を発揮できているのなら、それはマティアス様がいい主人だってことよ。私、あの方と結婚します」

 未だに夫になる人に会えていないのだが、フランチェスカの気持ちはもう完全に結婚に向けて傾いていたのだった。

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